アメリカで51万6千人超が透析治療を受けている中で、数千人の心筋梗塞・脳卒中を防げる可能性がある——新たな研究で、魚油サプリが心血管イベントをほぼ半減させる可能性が示されました。

11月7日『New England Journal of Medicine』に掲載されたPISCES試験では、カナダ・オーストラリアの26施設で、重度腎不全のため定期透析を受ける成人1,228人を約3.5年間追跡しました。

透析患者は一般人口より心血管疾患による死亡リスクが20倍とされ、この発見は特に重要です。

高リスクの集団を数年にわたり追跡し、重篤な心血管イベントを約50％低減し、かつ一貫した効果を示し安全性にも大きな問題が見られなかった大規模多施設ランダム化比較試験は「非常に稀で重要だ」と、心疾患対策にAIや超音波技術を活用するスタートアップUs2.ai共同創設者のキャロリン・ラム博士（研究非関与）はエポックタイムズに語りました。

血液透析患者で最も頻度の高い心血管関連イベントは脳卒中で約26％、次いで心疾患でした。
 

治療法：1日4カプセル

参加者には、オメガ3脂肪酸を含む魚油カプセルまたはコーンオイルのプラセボがランダムに割り当てられ、患者・研究者双方がどちらの群か分からない二重盲検で行われました。

治療群は1日4カプセルを摂取し、エイコサペンタエン酸（EPA）1.6g＋ドコサヘキサエン酸（DHA）0.8g——魚油に含まれる主要なオメガ3脂肪酸——を摂りました。血液検査では、魚油群でこれらの脂肪酸レベルが上昇し、良好な服薬遵守が確認されました。

結果、魚油群ではプラセボ群と比べ、重篤な心血管イベント（心筋梗塞、脳卒中、突然死、血管疾患による四肢切断など）が43％減少しました。

安全性監視では、オメガ3サプリで懸念される出血リスクの増加はみられず、副作用は両群でほぼ同程度でした。

「魚油群とプラセボ群で副作用に差はありませんでした」と、トロント大学医学教授でトロント総合病院研究所上級科学者の研究著者チャーメイン・ロク博士はエポックタイムズに語りました。

ニューヨーク・ノースウェルヘルス・レノックスヒル病院の腎臓専門医アンドリュー・モーゼス博士（研究非関与）は、このデータを「非常に興味深い」と評価し、「3.5年間で3人治療すれば1件の心血管イベントを防げる可能性がある」と指摘しました。

「限界はあっても、高用量オメガ3を適切に摂取できる3人がいれば、悪い結果を1件防げる——これはかなり驚くべきことです」とモーゼス博士は述べています。
 

魚油が透析患者に効く理由

オメガ3脂肪酸は、炎症をやわらげ、不整脈を抑え、血管機能を整えることで心臓を保護すると考えられています。透析患者はこれらの有益な脂肪酸が低い傾向にあり、サプリの効果が見られやすい可能性があります。

ロク博士の仮説では、オメガ3が血栓形成の抑制、不整脈の防止、プラークの安定化に働き、心血管疾患の進行を遅らせ、急性の健康問題を減らす可能性があるとされています。

透析患者は透析そのものが炎症を促し、不整脈を誘発しやすい環境となるため心血管イベントのリスクが特に高いとされます。透析中の急速な体液・電解質の変動が心臓に負担をかけ、不整脈を招きやすく、オメガ3は心筋細胞の特定の電流を抑えて安定化に寄与すると考えられています。

今回の研究結果は、オメガ3血中レベルが高いほど心血管リスクが低いとする従来の報告とも一致します。
 

重要な注意点と今後

研究者たちは、今回使用した魚油の用量は1g/日を超えており、他の研究でも効果が高いとされる量だったと指摘しています。使用されたカプセルはエチルエステルベースのオメガ3——濃縮加工された魚油——であり、この特定製剤が効果に影響した可能性もあります。

ロク博士は、患者が適切なカプセルと摂取方法について医師に相談し、今回の試験が「特定の魚油カプセルが安全で心血管イベント率を減らした」という点を強調しています。

一方でモーゼス博士は、この試験が高用量オメガ3製品Vascepaの製造元による資金提供を受けており、潜在的なバイアスの可能性を指摘しました。「それでもデータは非常に良好で、真偽を確認するために再現研究が必要です」と述べています。

その他の限界として、多くの参加者が積極的な心血管治療を受けていなかったこと、また結果が非透析患者には当てはまらない可能性がある点が挙げられます。

モーゼス博士は、多くの透析患者が抗凝固薬または抗血小板薬を服用しているため、潜在的な参加者の大部分が試験から除外された可能性があると指摘しました。

研究プロトコルでは、抗凝固薬を2種類以上服用している患者は除外されました。

研究者たちは、最適な用量と長期的な安全性を確認するためにさらなる研究が必要だとしつつ、今回の結果は魚油が透析患者の心血管イベントや死亡リスクを下げる可能性を示していると強調しています。

（翻訳編集　日比野真吾）