寒さが招く血の滞り
冬は一年のうちでも、心筋梗塞や脳梗塞といった心血管疾患が最も起こりやすい季節です。
『黄帝内経』には「寒すれば気は収し、血は中に凝る」とあります。
冷気が体に入り込むと、血管が収縮し、気の流れが滞り、血の巡りが悪くなります。これこそが「寒すれば血は凝る」という現象です。血脈が冷えて固まり、心の陽気(エネルギー)が不足すれば、心臓の働きが弱まり、胸の圧迫感や痛みを引き起こし、ひどい場合には脳卒中にもつながります。
中医学は「自然医学」とも「物理医学」とも呼ばれます。病が起こる理由は、自然の変化や身体の物理的な反応として理解できるからです。仕組みが分かれば、自分の体に合わせて食物で整え、病気を未然に防ぐことができるのです。
気温が急に下がると、血管は自然と収縮し、硬く締まります。これは「熱すれば膨張し、冷えれば縮む」という、まさに物理法則そのものです。水が冷えて氷になるように、寒気が血脈に入り込むと血液の粘度が上がり、流れが滞りやすくなります。その状態が続けば、瘀血や血栓へとつながり、血圧も上昇します。血圧が上がるのは、血流を確保しようとする身体の本能的な「自救反応」でもあります。

さらに冬は運動量が減り、座っている時間が増え、脂っこい食事が多くなりがちです。 その結果、脾胃に負担がかかり、気血のめぐりが悪くなり、気機が内側で滞ります。まさに、心筋梗塞や脳梗塞といった心血管疾患が起こりやすい時期と言えるのです。
だからこそ、季節や気候の変化に目を向ければ、人の体に起こる変化も、決して特別なことではなく、自然界の流れと同じ 「物理現象」 にすぎないことがわかります。
寒さは陽気を傷つけ、気の巡りを滞らせ、血を凝らせます。冬の養生の要は、まさに「温めて通す」こと。そしてちょうど今が、りんごとサンザシ(山査子)が力を発揮する最良の時期なのです。
サンザシは勇猛な武将、りんごは穏やかな文臣
日々の食卓で行う「温めて通す」養生法として、最も手軽で効果的なのが、果実の良薬――サンザシとりんごです。
サンザシは、性味が酸・甘でやや温、脾・胃・肝の経に入ります。『本草綱目』には「肉食を消し、油腻を化し、瘀血を散ず」と記され、油ものの消化を助け、血の滞りを通し、気の停滞をほどくのが得意です。
ただし酸味の「収れん力」が強いため、長期間の多食や空腹時の生食は胃を傷めるおそれがあり、お茶やおやつとして適量をいただくのが望ましいとされています。

一方のりんごは、同じバラ科の果実でサンザシの「親類」とも言える存在です。性質は平、味は甘く、脾・肺・心に働きかけます。脾胃を整えて消化を助け、体に潤いを与えて乾きを癒し、気の巡りを調える働きがあります。やわらかい甘味の中にほどよい潤いがあり、脾胃の運化を助けながら、肺を潤して津液を生み、体内の気の流れをバランスよく整えてくれます。
たとえるなら、サンザシは滞りを打ち破る「武将」。りんごは気血を調え、日々の巡りを支える“文臣”。サンザシが急を救い、りんごが常を養う。この二つがそろうことで、体の気機は塞がることなく、未病を防ぐ力がしっかりと働いてくれるのです。
西洋の“肉文化”には、必ずりんごが寄り添う
西洋では古くから肉食が中心ですが、その土地には不思議と、肉料理と相性のよい“りんご”が豊かに実ります。
これは天が与えたバランスの法則とも言えるもので、りんごには脾の働きを助け、滞りを解き、油っぽさを分解し、血の巡りをなめらかにする力があります。高脂肪で消化に時間のかかる食事を補い、調和させる「天然の組み合わせ」なのです。

古人は「天は万物を生かす徳を持つ」と言いました。自然界に存在するものの分布や組み合わせは偶然ではなく、肉を与えれば、それを消して調える果実も与える、これこそ天地の慈しみのあらわれです。
人がこの自然の理に従い、食に対して感謝と畏れの気持ちを持ち、自然が授けてくれた生かす力を読み解き、四季と土地に応じた素材をいただくこと。それこそが、何よりの養生につながるのです。
りんご――やさしく補い、血の滞りもほどく果実
冬の養生では、気血を温めて巡らせつつ、滞りをつくらないことが大切です。りんごはまさに、その「中和の力」を備えた果実です。
穏やかで胃に負担をかけず、やさしい甘味で潤いを与え、日々の食卓で血脈を温め通し、肺を潤し、脾の働きを支えてくれます。
「1日1個のりんごは医者いらず」という西洋の言葉は有名ですが、これは東洋の「未病を治す」知恵とも深く響き合います。りんごは強さで押し切るのではなく“柔で剛を制し”、潤いによって滞りを動かす果実です。日々のさりげない果香の中に、自然からの調整の力がそっと宿り、気血はなめらかに巡り、心の脈もうららかに整っていきます。
りんご・サンザシ・竜眼の温養茶――温めて補い、滞りをほどき、心脈を整える
材料
- りんご……1個(皮付きのまま薄切り)
- 乾燥サンザシ……3g
- 竜眼肉(りゅうがん:桂円)……5粒
- しょうが……3枚
- なつめ……2粒
作り方
- 材料をすべて洗い、小鍋に入れて水600mlを注ぐ。
- 強火で一度沸かし、弱火にして15分ほど煮る。
- 火を止めて5分ほど蒸らせば出来上がり。
効能
りんご:脾胃を整え、潤いを生み、気の巡りを調える。
サンザシ:食積を解き、油っぽさをさばき、気血の停滞をほどく。
竜眼:心脾を補い、血を養って心を落ち着かせる。
なつめ:気血を補い、しょうがは体を温めて寒を散らす。
これらを合わせることで、気血を温めながらすこやかに巡らせ、血脈の滞りをやさしく解きほぐし、補っても重くならず、通しても傷めません。
体質に合わせたアレンジ
- 寒性体質(冷えやすい・手足が冷たい):
肉桂(シナモン)を少量、または陳皮を加えて、陽気を温め気の巡りを促します。
- 熱性体質(のぼせやすい・口が渇く):
しょうがを除き、麦門冬(ばくもんどう)や少量の凝菊花を加えて、余分な熱をさまし潤いを補います。
- 脾虚・湿がたまりやすい体質(舌苔が厚くべたつく・お腹が張りやすい):
竜眼は省き、ハトムギ10gを加えると、脾を整え湿をさばく働きが高まります。
食後に一杯を続ければ、脾を温め、心を養い、滞りをやさしく解いて血の巡りを整えることができます。冬の心・脳血管トラブルを防ぐ、頼もしい食養生の一杯です。
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