多くの人は、公衆トイレの便座には危険な細菌が大量に潜んでおり、病気の原因になると信じています。しかし皮膚科医や微生物学者によると、たしかにトイレには病原体が存在するものの、「便座が主な感染源になることはまれ」だといいます。
台湾の皮膚科医で、アメリカ皮膚科学会会員のチェン・ウェイディー博士はエポックタイムズの取材で、便座に細菌は存在するが、多くは特定の条件がそろわなければ病気を引き起こすことはないと説明しています。
他の専門家もこの見解に同意しており、トイレで最も注意すべきは、便座そのものではなく、トイレ内の他の表面に残った汚れや、流した後に空気中へ広がる微細な飛沫であると指摘します。
注意すべき病原体
ごくまれではありますが、寄生虫、カビ、細菌、ウイルスなどが、適切な条件下でトイレ内に生存し続けることがあります。
寄生虫とカビ
台湾・東元総合病院の主治医フアン・フイルン博士は、ケジラミや疥癬といったしぶとい寄生虫、そして股部白癬や体部白癬などのカビは、理論上、便座上で生存し次の利用者へ伝染する可能性があると述べています。
クロストリジウム・ディフィシル
2024年に『Scientific Reports』で発表された研究では、一般的な病原体であるクロストリジウム・ディフィシルが、トイレを流した後の空気中に広く拡散することが確認されました。この菌は結腸炎の原因となります。
胃腸ウイルス
ノロウイルスなどの胃腸ウイルスは、便座よりも「頻繁に触れる場所」、たとえば流しボタン、ドアノブ、水栓などに付着し、手を介して体内に入るとチェン博士は説明しています。
大腸菌とサルモネラ
人間の尿や便には、大腸菌やサルモネラが含まれています。トイレを流す際に発生する微細な飛沫が、これらの細菌を空気中に撒き散らすことがあります。主に糞口感染で広がり、下痢などの胃腸症状を引き起こします。
便座から性感染症はうつるのか?
公衆トイレに関する最も根強い不安が「便座から性感染症がうつる」というものですが、専門家はこれは事実ではないと断言します。
フアン博士によると、淋病や梅毒の原因となる細菌は体外で生存できず、実験室でも培養が難しいほどです。HIVも非常に脆弱で、体外に出ると徐々に活性を失います。これらの感染症は主に性交によって感染します。
一方、ヒトパピローマウイルス(HPV)[1]が原因の尖圭コンジローマ[2]については、前の利用者の尿に活性のあるHPVが含まれており、皮膚の傷や粘膜が尿に触れた場合、理論上は感染の可能性があるとしています。
しかしフアン博士は「実際の診療ではそのようなケースは見たことがありません。便座に触れても皮膚が健康で無傷なら、ウイルスや細菌の侵入をしっかり防ぐことができます」と述べています。
[1]ヒトパピローマウイルス(HPV):性経験のある女性であれば50%以上が生涯で一度は感染するとされている一般的なウイルス。
[2]尖圭コンジローマ:HPVによって引き起こされる性行為感染症。男性、女性ともに口や性器周辺などに「イボ」が出現する。
トイレットペーパーを便座に敷くのは本当に衛生的?
YouGovの調査では、公衆トイレを利用するアメリカ人の約63%が便座に直接座り、その約半数が座る前にトイレットペーパーを敷くと答えました。また約20%は「しゃがむ派」であることも判明しました。
しかし、「トイレットペーパーを敷けば衛生的」という考えは誤解である可能性があります。
チェン博士は、トイレットペーパーは多孔質で、微生物が付着しやすい構造だと指摘。さらに、トイレを流す際に舞い上がる細菌が空気中に広がり、トイレットペーパーを汚染している可能性があると言います。
一方で、一部の公衆トイレや家庭では、トイレットペーパーを密閉容器で保管し、空気中の細菌の付着を防ぐ工夫がされています。最も安全なのは「使い捨て便座シート」で、非多孔質で病原体を遮断する設計になっています。
ふかふか便座カバーの問題点
寒い季節、冷たい便座に座るのが嫌で、ふかふかした布製便座カバーを使う人もいます。
しかし布製カバーは快適な反面、多孔質で水分を吸収しやすく、細菌・ウイルス・カビを溜め込みやすいという欠点があります。
消毒もしにくいため、共有トイレでは交差感染のリスクを高めます。
公衆トイレを安全に使うためのポイント
1、消毒剤を携帯する:トイレットペーパーよりも、アルコールスプレーや消毒剤で便座・流しボタン・ドアノブを消毒するほうが効果的です。
2、流す前に便蓋を閉める:便蓋を閉めることで、飛び散る細菌の量を大幅に減らせます。研究でも、便蓋を閉じて流すとクロストリジウム・ディフィシルの飛散が抑えられることが示されています。
3、手洗いを徹底する:ノロウイルス、大腸菌、サルモネラはすべて糞口感染します。トイレ使用後は必ず石けんと水で20秒以上洗うことが最も重要で、感染予防に最も効果的です。
研究では、3日ごとに消毒剤やトイレ用クリーナーで清掃すると、便器内の細菌・ウイルス汚染を減らせることが分かっています。
また、塩酸を含む洗浄剤は便器内のウイルスを99.99%以上、トイレブラシでは97.64%減らすことができます。浴室の適切な換気も細菌の増加を抑える効果があります。
結論:便座は多くの人が想像するほど危険ではありません。本当に注意すべきは、洗っていない手、汚染された取っ手やボタン、流した後に空気中に舞う飛沫です。正しい衛生習慣を身につければ、公衆トイレを安全に利用でき、不必要に恐れる必要はありません。
(翻訳編集 日比野真吾)
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