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完璧な不完全さ:1500年の歴史を持つ技法でAIに抗う作家

ほんの数分の操作で、人工知能(AI)はどんな画像も、グラフィックアートも、最新の洗練されたロゴデザインも生み出すことができます。

しかし、この大量生産された便利なアートの氾濫こそが、一人の作家兼イラストレーターに「流れに逆らう」決意をさせました。

アリソン・スティガートさんは、「イルミネーション(彩飾写本)」という1500年の歴史を持つ芸術の名のもとに、ペンを紙の上に走らせています。この技法は多くの人がどこかで見たことはあっても、深く考えたことのない古典美術です。

イルミネーションは西暦500年頃からヨーロッパで記録されており、本や手書き原稿に金や銀を使って装飾を施し、文字や模様を光り輝かせる技法です。

最も一般的な形式は文章の最初の文字を装飾することですが、ほかにもさまざまな手法が存在します。

アリソン・ステガートによる、様式化された文字「T」を描いた英国風イルミネーションアート作品。(アリソン・ステガート提供)
アリソン・スティガートによるイングリッシュスタイルのイルミネーション作品「T」の例(提供:アリソン・スティガート)

現代では、この古代のアートが新たな復興期を迎えています。Instagramのようなオンラインプラットフォームを通じて、数十万人のフォロワーに自らの作品を披露するアーティストたちが登場しています。

「これは私なりのAIへの小さな反抗なんです……。Photoshop(フォトショップ)を使えば、もっと完璧に見えるように仕上げることもできます。でも、私はそうしたくないんです」とスティガートさんはエポックタイムズの取材で語りました。

「私たちはあまりにも完璧なグラフィックや、滑らかで隙のないビジュアルに慣れすぎてしまいました。そのせいで、人間らしさが失われているように感じます。でも、このアートの世界では、特に原本を見ると、そこには『誤り』があるんです。線が少し曲がっていたり、中央からずれていたりします。それでも美しく、驚くほど魅力的です。そして、『これは人が作ったものだ、機械ではない』という温もりを感じるんです」

スティガートさんは出版された児童書作家でもあり、この古代の芸術を現代に甦らせることに情熱を注いでいます。

彼女は2023年のデビュー小説『Her Majesty’s League of Remarkable Young Ladies(女王陛下のすばらしき少女たちの同盟)』でいくつもの賞を受賞しましたが、今ではイラストを描くことへの愛情もさらに深まっています。

アリソン・ステガートによる、文字「X」を象った英国風イルミネーションアート作品。(アリソン・ステガート提供)
アリソン・スティガートによるイングリッシュスタイルのイルミネーション作品「X」の例(提供:アリソン・スティガート)

 

「いくつか執筆中の作品はありますが、文章を書く合間に脳を休めるためにアートを描いているんです」と彼女は話します。

昔の時代には本にインデックス(目次タブ)がなく、美しい金文字で章や節の始まりを示していました。

「当時は専門の職人がいて、写本(テキストを書き写す作業)を行う教育を受けた人々がいました」とスティガートさんは説明します。「そして、挿絵を描くアーティストがいたんです。だから私にとって、イルミネーションは『イラストレーション(挿絵)』の母なんです」

この古代技法を習得するため、彼女は最初トレース(なぞり描き)から始めましたが、1年以上の練習を経て、自分自身のデザインを描けるようになりました。

アリソン・ステガートによるイルミネーション作品の例。(ダニエル・Y・テン/エポックタイムズ)
アリソン・スティガートのイルミネーション作品の例(撮影:ダニエル・Y・テン/エポックタイムズ)

 

「クイーンズランド州には数人、プロのカリグラファー(美しい文字を書く専門家)がいますが、私はその中には入りません。彼らは公式文書なども手がけています」とスティガートさんは言います。

そんな彼女の芸術的な旅を導いた一人が、正式なカリグラファーであるピーター・テイラーさんです。

「私は定期的にアートを描く習慣がなかなか身につかなかったので、『#IlluminatedLetteringChallenge(イルミネーション文字チャレンジ)』というハッシュタグをつけた挑戦を始めたんです」

「そのアイデアは、2週間に1文字ずつ描いて、1年で英語のアルファベット全26文字を完成させるというものでした。でも、最初の文字『A』からではなく、一番簡単な『I』から始めたんです」

「続けていくうちに、とても素晴らしい経験になりました。定期的にアートを描く習慣を確立でき、この美しい芸術の世界に深く浸ることができたんです」

スティガートさんのこうした取り組みは、ソーシャルメディアやテクノロジーへの常時接続状態に対する「抵抗」の一環でもあります。

「ソーシャルメディア依存、YouTubeの終わりのない動画視聴(ラビットホール)、テトリス効果(頭の中で映像が残り続ける現象)、そして手放せないスマートフォン──テクノロジーというのは、一度取りつかれるとなかなか離れにくく、まるで廃屋のクモの巣のように、ゆっくりと人生全体を覆ってしまうのです」と英文学者のウォーカー・ラーソン氏はエポックタイムズに寄稿しています。

ラーソン氏によれば、人々の間ではテクノロジーとの付き合い方を見直す動きが高まっているといいます。

「それはつまり、真の人間的な豊かさ──『今この瞬間』に生きること、心の充実、集中力、深い思索、そして人と直接つながること──を大切にするために、テクノロジーの使用に明確な制限を設けるということです。これこそが『テック・レジスタンス(技術への抵抗)』なのです」

(翻訳編集 井田千景)

crystal-rose-jonesはオーストラリア在住の記者。以前はニューズ・コーポレーションにシニア・ジャーナリスト兼編集者として16年間勤務。
シドニー在住のエポックタイムズ記者。豪州の国内政治、新型コロナ対応、豪中関係などの国政問題を専門とする。