「冬に大根、医者いらず」 中医学が教える大根もちの効能
霜降の頃になると、寒気はいっそう深まり、秋と冬の気が入れ替わる時季を迎えます。この時期は肺がもっとも傷つきやすく、咳や風邪、インフルエンザが流行しやすい季節でもあります。そんなときにぴったりの身近で頼れる食材が「大根」です。
昔から「冬に大根、夏に生姜、医者いらず」と言われるように、この言葉はまったくの道理にかなっています。ただし、その理由を理解せずに食べては、せっかくの効能も十分に発揮されません。本当に大根の力を引き出したいなら、まずは「なぜこの季節に大根がよいのか」を知ることが大切です。
大根は「気を下げる」働きで体を整える
中医学では、世界のすべては「木・火・土・金・水」の五行によって成り立ち、四季の移ろいもこの五つのエネルギーが循環する姿とされています。
春は木、夏は火に属し、陽気が上昇する季節。秋は金、冬は水に属し、陽気は下降します。土はその中心で、まるで車輪の軸のように上下の気の流れを調え、天地の循環を保っています。
人の体もこの自然と同じく、五臓が五行に対応して気を巡らせています。肝は木に属して上へと伸び、肺は金に属して下へと降ろす働きをします。春に肝の気が上昇し、秋に肺の気が下降する。この「昇降の循環」こそが健康の根本です。
しかし、秋冬に肺の気がうまく下がらないと、上半身に陽気がこもり、咳・のどの痛み・不眠・便秘などの不調を招き、さらには肺熱による炎症を起こすこともあります。
そんなときが大根の出番となります。
大根は性質が涼しく、味は辛みと甘みを併せ持ち、なによりも「気を下げる」ことが得意な食材です。肺や胃の気を下に導き、痰をさばき、咳をしずめ、食欲を整え、胃の滞りを解消します。
咳や痰、しゃっくり、食べすぎによる不調の多くは「気が上へ昇りすぎる」ことから起こりますが、大根を食べることで気の流れが自然に整い、咳も痰もおさまります。
ただし、「降気」が過ぎると、肝の働きを弱めて気のめぐりが鈍くなり、倦怠感や気分の落込みを招くことがあります。そのため、大根を食べるときは、ねぎ・にら・しそなど、やや陽性の食材を合わせるとよいでしょう。そうすれば「降」の中にも「昇」があり、気の流れが調和し、秋冬の養肺・整気に理想的な食べ合わせになります。
次に紹介するのは、そんな季節にぴったりの最も身近で手軽な一品です。
養生レシピ:大根もち(3〜4人分)
材料
- 大根……1本(約500g)
- 椎茸……2枚
- むきエビ……50g
- 油揚げ……1枚
- 青ねぎ……2本(小口切り)
- 卵……1個
- 小麦粉……100g
- 塩……小さじ1
- こしょう……少々
- うま味調味料……少々
- サラダ油……適量
作り方
- 大根は洗って皮をむき、細い千切りにして軽く水気をしぼる。
- 椎茸、エビ、油揚げは細かく刻むか細切りにする。
- ボウルにすべての材料を入れ、塩・こしょう・うま味調味料で味を調える。
- 卵を割り入れ、小麦粉を加えてややとろみのある生地に混ぜる。
- フライパンに少量の油を熱し、スプーンで生地をすくって小さな円形に広げ、両面をこんがり焼き上げる。
養生ポイント
大根:肺を潤し、痰を切り、熱を冷まして咳をしずめ、気の流れを下げて脾胃の働きを助けます。
エビ:腎の陽を補い、体を温めます。
ねぎ:気の巡りを整え、香りで陽気を引き出します。
こしょう:胃を温めて冷えを散らし、消化を助けます。
この料理全体が、気の流れを「下げながら上げる」絶妙なバランスを持ち、温かさの中にも潤いをもたらします。
まさに、秋冬の「気を収めることを貴しとする」季節の理にかなった一品です。