脳が健康を保つためには、安定した血液の供給が欠かせません。それはまるで、庭の植物が育つために水を必要とするのと同じです。ところが、血圧が高すぎる状態が続くと、血管が絶えず圧力にさらされて傷ついてしまいます。これは、水圧が強すぎて灌漑システムが壊れ、植物を痛めてしまうのと似ています。長い年月をかけてその損傷が蓄積すると、アルツハイマー病のリスクが大幅に高まるのです。
朗報なのは、血圧を薬や生活習慣の改善によってしっかりコントロールすれば、脳と記憶を守るための最も有効な防御線になるということです。
「沈黙のキラー」――脳をむしばむ高血圧
多くの人は気づいていませんが、慢性的な高血圧は知らぬ間に脳を攻撃しています。研究データによれば、血圧が正常な人に比べ、治療を受けていない高血圧の人はアルツハイマー病を発症するリスクが約40%も高いことがわかっています。
その仕組みを理解するには、脳の血管を「精密な灌漑システム」と考えるとわかりやすいでしょう。高血圧が続くと、水圧を最大にしたような状態になり、やがて脆い血管が傷ついて硬くなり、脳の細胞へ十分な血液や栄養が行き渡らなくなります。
さらに悪いことに、血流が滞ると脳の「老廃物処理システム」の働きが低下します。その結果、「βアミロイド」と呼ばれる粘着性の老廃物が脳内にたまり、脳細胞の間を覆ってしまうのです。これが細胞同士の正常な情報伝達を妨げ、最終的には記憶力や思考力の低下につながります。
脳を守る3つの健康戦略 ― リスクを逆転させる方法
脳の老化を専門とするストーニーブルック大学代謝神経科学部の主任、リリアンヌ・ムヒカ・パロディ氏はこう語ります。「認知機能の低下は加齢による『避けられない結果』ではなく、早期の介入によって予防できる『過程』なのです」
高血圧の治療は、たとえ高齢になってからでも遅くありません。薬による管理や定期的なモニタリングは確実に効果がありますが、加えて3つの生活習慣の改善が脳の健康を守る大きな鍵になると、管理栄養士のメリッサ・モロズ・ラネルス氏は強調します。
① DASH食 ― 科学的に実証された「脳に良い食事法」
DASH(Dietary Approaches to Stop Hypertension)食は、最も多くの臨床研究で効果が裏付けられた降圧食です。野菜や果物、全粒穀物、低脂肪の乳製品、脂肪の少ないたんぱく質(魚や鶏肉など)を多く摂る一方で、ナトリウム、砂糖入り飲料、加工食品の摂取を厳しく制限します。
有名な「DASH-ナトリウム試験」では、ナトリウムを控えたDASH食を実践した参加者の収縮期血圧(上の血圧)が平均7.1〜11.5mmHg低下したと報告されています。さらに、この食事法は脳機能の改善やアルツハイマー病リスクの低下とも密接に関係していることが確認されています。
② 定期的な運動 ― 血管の「クリーナー」
運動は血圧を下げるだけでなく、脳を含む全身の血管を健康に保つ強力な手段です。研究によると、わずか4〜12週間の有酸素運動(ウォーキングやサイクリングなど)を行うだけで、収縮期血圧が約15mmHg、拡張期血圧が最大9mmHg低下することがわかっています。運動は心筋を鍛え、血管の弾力性を維持することで、循環系全体の健康を支える「天然の治療薬」といえるでしょう。
③ ストレス管理 ― 心を穏やかにして脳の血圧を下げる
慢性的なストレスやうつ症状もまた、血圧や認知機能に悪影響を与えることが知られています。その対策として効果が注目されているのが、横隔膜呼吸法です。1日2回、1回10分、1分間に約6回のペースでゆっくり深呼吸を続けるだけで、4週間後には血圧や心拍数の低下、不安の軽減といった効果が確認されています。
栄養士のモロズ・プラネルズ氏はこうまとめています。「たとえ小さな変化でも、大きな違いを生み出すことができます。大切なのは『完璧』を目指すことではなく、『少しずつ前進すること』。早く始めるほど、あなたの脳をより早く守ることができるのです」
(翻訳編集 華山律)
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