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1回の検査でほぼすべての感染症を診断できる

研究者たちは、人体内のほとんどの神経系および呼吸器系の感染性病原体を検出できる、単一のゲノム検査を開発しました。この検査は、すべての感染性病原体を識別できる可能性がありますが、現在のところ神経系と呼吸器系の感染症に限定して使用されています。

カリフォルニア大学サンフランシスコ校で10年間にわたり行われた研究によると、この検査は神経感染症の診断において86%の成功率を示しました。この研究結果は、2024年11月12日に『Nature Medicine』誌に発表されました。

また、同日『Nature Communications』誌に発表された研究では、現在の標準的な診断法であるPCR検査と比較して、呼吸器ウイルスの検出において90%以上の精度を示しています。

この検査はアメリカ食品医薬品局(FDA)の認可も受けており、髄膜炎や脳炎といった神経感染症の治療改善に加え、新たなウイルス性パンデミックの脅威を早期に検出する可能性を持っています。
 

技術の仕組み

従来の検査の多くは、1回で1種類か数種類の病原体しか検出できません。しかしこの新しい検査では、患者のサンプルに含まれる遺伝物質を分析することで、存在するすべての病原体を一度に検出できます。

さらに、サンプル内の各病原体の量を測定することで、病気の重症度を予測し、原因となる病原体を迅速に特定することも可能です。

この技術は「メタゲノム次世代シーケンシング」と呼ばれる強力なゲノム解析技術です。当初は脳と脊髄を取り囲む脳脊髄液を分析するために開発され、以来カリフォルニア大学サンフランシスコ校および全米の病院で、原因不明の神経症状を持つ何千人もの患者に対して実施されてきました。

2024年11月12日付『Nature Communications』誌に掲載された関連研究では、研究者たちがメタゲノム次世代シーケンシングプロセスを自動化し、呼吸器液から肺炎の原因となる病原体を特定する方法についても報告しています。
 

1回の検査ですべての感染症を網羅

この技術は、特に原因不明またはまれな病原体によって引き起こされる神経疾患の診断において、極めて重要となる可能性があります。診断の遅れは、患者の予後に重大な影響を及ぼすからです。

カリフォルニア大学サンフランシスコ校の臨床検査医学および感染症の教授であり、本研究の主著者であるチャールズ・チウ博士は、次のように述べています。「私たちの技術は一見シンプルに見えますが、複数の検査を1つにまとめることで、診断と治療における長時間の試行錯誤を排除できるのです」と。

実際の臨床現場でも成果が出ています。注目すべき事例として、迅速な検査結果により、ウィスコンシン州の少年の原因不明だった感染症が解決に導かれました。

2016年から2023年の間に、カリフォルニア大学サンフランシスコ校のチームは約5,000件の脳脊髄液サンプルを分析。そのうち14%以上が感染症と診断され、新しい検査では86%の確率で病原体が特定されました。

「私たちのメタゲノム次世代シーケンシング検査は、神経感染症の診断において他のどの検査よりも優れている」と、チウ博士は述べています。
 

今後の展望

この技術は、特に呼吸器感染症の分野でさらなる進化を遂げています。

現在の脳脊髄液検査は100以上のステップを経て2〜7日かかりますが、新しい呼吸器用の検査では、より迅速な結果を目指しています。

「私たちの目標は、全プロセスを12〜24時間以内に完了し、同日または翌日に結果を得られるようにすることです」とチウ博士は語ります。

両研究の結果から、メタゲノム次世代シーケンシング検査はCOVID-19の原因ウイルスであるSARS-CoV-2を含む、パンデミックを引き起こす可能性のある呼吸器ウイルスをわずかな量でも1日程度で検出できることが示されています。

脳脊髄液および呼吸器用のメタゲノム次世代シーケンシング検査はすでに米国食品医薬品局からブレイクスルーデバイス指定を受けており、これにより製造業者は米国食品医薬品局の専門家と連携しながら、販売前審査の段階で生じる課題に対応することが可能となります。

(翻訳編集 神谷一真)

がん、感染症、神経変性疾患などのトピックを取り上げ、健康と医学の分野をレポート。また、男性の骨粗鬆症のリスクに関する記事で、2020年に米国整形外科医学会が主催するMedia Orthopedic Reporting Excellenceアワードで受賞。