高齢化が進むにつれて、認知症やその他の認知機能障害が国民的な健康課題として注目されつつあります。台湾の睿鳴堂の主治医・周大翔医師によれば、質の高い睡眠は認知機能の低下を予防するための重要な要素の一つです。就寝前のツボ押しや適度な食事、運動によって、睡眠の質を向上させ、脳を守ることができます。
就寝前の運動は快眠を助ける
周医師によると、臨床でよく見られる2種類の睡眠障害には「気血の停滞」と「精神の興奮」があります。
- 気血の停滞:長時間座りっぱなしで運動不足の生活をしていると、気や血液の流れが妨げられ、スムーズに巡らなくなります。
- 精神の興奮:仕事や生活のストレス、電子機器から発せられるブルーライト、高カロリーな食事などが精神を過剰に刺激し、就寝時間になっても脳がリラックスできなくなります。
就寝前に軽い運動を取り入れると、気血の流れを促進する効果が期待できます。たとえば、ストレッチや脊椎を使った呼吸運動などが効果的です。中国古典舞踊の基本である「身韻」は、呼吸に集中する脊椎運動であり、以下のような方法で快眠をサポートします。
- 自律神経の調整:脊椎は自律神経の中枢に位置しており、呼吸と脊椎の動きを組み合わせることで自律神経を整えます。
- 緊張した筋肉をほぐす:脊椎呼吸運動では、前後に伸び縮みする動きによって背中の筋肉の緊張が和らぎ、身体をリラックスさせる効果があります。
- 雑念を静める:呼吸に集中することで思考をリセットし、心と身体を一体にすることができます。
- 経絡と内臓の活性化:脊椎の動きが周囲の経絡やツボを刺激し、内臓に間接的にマッサージを加えることで、気血の循環を促します。
安眠を促すツボ
現代人に多く見られるブルーライトの刺激や、脳の過剰な働きによる不眠の悩みに対し、周大翔医師は、以下のツボをマッサージすることで入眠を助ける効果があると勧めています。
攅竹(さんちく):眉毛の内側の端にあるくぼみの部分。長時間のパソコンやスマートフォンの使用で目の周囲や額の気血が滞り、圧迫感や疲労感が生じやすくなります。このツボを押すことで、眼圧や目の疲れを和らげ、頭部のリラックスを促します。
太陽(たいよう):目尻と眉尻の中間から外側に伸びたくぼみに位置するツボ。頭の両側にあるこのツボを押すと、頭皮の緊張や経絡のこわばりをほぐし、雑念を和らげて頭の中をスッキリさせる効果があります。

内関(ないかん):手首の内側、手首のシワから指3本分上にある場所。ここを押すと気血の流れが整い、感情の安定や穏やかな入眠をサポートします。

周医師は、頭部には多くのツボが集まっているため、自分で頭皮マッサージを行うことも推奨しています。広範囲のツボを刺激することで心身をリラックスさせ、感情的なストレスを解放し、眠りにつきやすくなります。
睡眠が脳のデトックスを助ける
アルツハイマー病などの認知症患者の脳内では、βアミロイドやタウタンパク質といった異常なタンパク質の蓄積がよく見られます。台湾の周大翔医師は、真に深い睡眠こそが脳の「類リンパ系」を活性化し、これらの老廃物を排出する助けになると説明しています。また、深い睡眠は脳脊髄液の循環を促進し、脳内の酸化ストレスを軽減し、脳細胞を保護することで、身体機能の安定にもつながるといいます。
睡眠薬は確かに入眠を助ける効果はありますが、必ずしも深い眠りを得られるわけではありません。周医師によると、睡眠薬は脳内の神経伝達物質であるGABAに作用し、神経細胞の活動を抑えて鎮静・催眠効果をもたらす仕組みですが、それだけでは真の深い眠りには届かないと述べています。
これに対して、中医学では「気血」や「気機(エネルギーの流れ)」のバランスを整えることで、自然な深い眠りへ導くことを重視します。周医師は、中薬(漢方薬)や鍼灸、適度な運動が「気血を後押し」し、スムーズに流れ、適切に緩急がつくことで、自然に入眠しやすくなり、深い睡眠にも入りやすくなると述べています。
睡眠は「時間よりリズム」が重要
多くの人が「8時間寝れば大丈夫」と考えがちですが、研究では、睡眠時間そのものよりも「規則正しい生活習慣」のほうが重要であることがわかっています。中医学では、日中に気血が外に向かって巡り、夜には内側に戻るというリズムを重視しますが、これを維持するには安定した生活リズムが不可欠です。
規則正しい生活、特に就寝のリズムを整えることは、脳内の「生体時計」を安定させ、気血の消耗を防ぎ、自然の昼夜サイクルと調和する中医学の「天人合一(自然との調和)」の考え方にも通じます。西洋医学においても、夜間に分泌されるメラトニンが身体の休息や修復を促すことが確認されており、夜に一定の時間に寝ることは、心身の回復により効果的であるとされています。
(翻訳編集 華山律)
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