45歳のゾーイさんは、自分の体のことを理解していると思っていました。しかし、突然の動悸と強い不安発作に襲われ、最初は仕事のストレスが原因だと考えました。その日、彼女が食べたのはペパロニピザと熟したバナナだけでした。ところが、いつものようにチーズパスタと赤ワインを夕食にとった数時間後、激しい頭痛に見舞われ、翌晩も同じ食事をした際に再び症状が出たことで、食事との関連を疑い始めました。
ゾーイさんは栄養学の分野で調べた結果、パルメザンチーズなどの熟成チーズ、加工肉、赤ワインに含まれる天然化合物「チラミン」に反応していることを発見しました。この化合物が体内に蓄積し、不安や頭痛を引き起こしていたのです。

チラミン感受性は、モノアミンオキシダーゼA(MAO-A)酵素の働きが低下しているため、体がチラミンを十分に分解できないときに発生します。この酵素が不足すると、過剰なチラミンが血圧急上昇、動悸、吐き気、片頭痛、不安などを引き起こします。MAO-Aの低下は遺伝的要因や薬の影響によって起こることがあります。慢性的な片頭痛は、チラミン感受性のある人によく見られる症状です。症状は通常、高チラミン食品を摂取した後、1~12時間以内に現れます。
チラミン感受性があるかどうかを判断するには、食事と症状を記録することから始めましょう。知らずにチラミンを多く含む食品を摂取していると、体内に蓄積してしまう可能性があります。研究では、食事への意識を持つことが食品不耐症の管理に有効であると示されています。
体のチラミン防御システム
MAO-A酵素は、セロトニン、ドーパミン、ノルアドレナリンなどの神経伝達物質や、チラミンを含む「アミン類」と呼ばれる食品由来の化合物を分解します。これらの神経伝達物質はバランスが重要で、過剰に蓄積すると神経系のトラブルにつながります。
MAO-A遺伝子は、この酵素の働きの速さを調整しています。遺伝子の変異はチラミン分解に影響を与え、一部の人ではチラミン感受性が高まり、抗うつ薬への反応が悪くなる傾向もあります。
また、慢性的なストレスはノルアドレナリンの増加を招き、低下しているMAO-Aの働きをさらに圧迫します。その結果、高血圧や気分の変動などの症状が悪化します。症状は高チラミン食品を食べた数時間後に現れることが多く、診断を難しくしています。
チラミン感受性が引き起こす可能性のある症状
1. 片頭痛
チラミンによるノルアドレナリンの急上昇は血管を収縮させ、痛みの経路を活性化します。この効果は遅れて現れ、食後数時間で片頭痛を引き起こします。
2. 不安と気分変動
過剰なノルアドレナリンは感情の調節を乱します。ある研究では、遺伝子変異が精神科患者の不安の重症度と関連しており、MAO-Aがメンタルヘルスに重要な役割を果たすことが示されています。
3. 高血圧危機
MAO阻害薬(特定の神経伝達物質の分解を抑える抗うつ薬)を服用している人にとって、チラミンを多く含む食品は危険です。摂取により血圧が急上昇することがあり、この現象は1960年代に「チーズ反応」として初めて報告されました。わずか6〜10mgのチラミンを含む少量のチーズでも、敏感な人には症状を引き起こす可能性があります。なお、チェダーチーズには1オンスあたり約42mgのチラミンが含まれています。

チラミン感受性の検出方法
食品・気分日記は、どの食品が症状を引き起こすのか、また症状が出るまでにどれくらい耐えられるのか(いわゆる「バケツ効果」)を確認するのに役立ちます。
- 食べたり飲んだりしたものをすべて、時間と量を記録する。
- 気分や症状(頭痛、吐き気、発汗、動悸、不安など)を記録する。食品への反応は数時間遅れて現れることが多いため注意する。
- ストレスの程度、睡眠、その他症状に影響を与える可能性のある要因も追跡する。
- 1~2週間後に日記を見直し、パターンを見つける。たとえば、残り物の鶏肉を食べた後に頭痛が起きた場合、次回はそれを避ける判断ができる。

チラミン感受性の管理方法
チラミン感受性の管理は、最初は難しく感じるかもしれません。しかし、いくつかのシンプルなステップに分け、食品・気分日記で経過を追跡することで取り組みやすくなります。こうして得た意識を新しい食事の選択に活かし、再び快適な生活習慣を作ることができます。
1. 新鮮な食品を選ぶ
- 熟成、発酵、加工食品の代わりに、新鮮な肉、魚、果物、野菜を選ぶ。例えば、熟成チェダーの代わりにモッツァレラやリコッタを選ぶ。サラミの代わりに新鮮な七面鳥を選ぶ。
- 過熟した食品、24~48時間以上経った残り物、「賞味期限」を過ぎた食品は避ける。食品が古くなるとチラミン含有量は増加する。
- 食品を安全に保存する:残り物は冷めたらすぐに冷凍し、調理済み食品は48時間以内に食べる。
2. ストレス管理と生活リズムの維持
ストレスはチラミン反応を悪化させる可能性があります。深呼吸、瞑想、やさしいヨガなどのシンプルなマインドフルネス活動を取り入れてみましょう。さらに、規則正しい睡眠と食事時間を守ることで、体がストレスに適切に対処できるようになります。
3. 個人的な限界を見つける
チラミンに対する「バケツの容量」は人によって異なります。特定の食品で症状が出た場合は、摂取量を減らすか、数日間避けて体が「バケツを空にできる」ようにしましょう。
不明な場合は、食品・気分日記を栄養士に持参すると、引き金となる食品や安全に食べられる食品を特定する助けになります。遺伝子検査は食事変更の試行錯誤を減らすのに役立つ可能性がありますが、まずは基本的な管理方法から始めることが推奨されます。
(翻訳編集 日比野真吾)
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