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良き食事は善き心から生まれる:ムリーリョ作「天使たちの台所」

スペイン・セビリアにある聖フランシスコ修道院は、名高い画家バルトロメ・エステバン・ムリーリョに依頼し、フランシスコ会の聖人たちを描いた13点の絵画を制作させました。その中の一つが『天使たちの台所』で、これは謙虚な在俗修道士[1]のもとに天上の存在が訪れ、彼の雑務を手助けしたという逸話を描いた作品です。ムリーリョは物語性のある絵画を得意とし、この作品もまさに奇跡的な物語を伝えています。

聖ジルについては、アッシジの聖フランチェスコの最初の弟子の一人であること以外、詳しい記録は残っていません。彼はムリーリョの時代よりも何世紀も前の人物です。『天使たちの台所』は「聖ジルの空中浮遊」とも呼ばれ、ムリーリョが知っていた逸話をもとにしています。それは、セビリアのフランシスコ会修道院に仕えていた在俗修道士フランシスコ・ペレスの物語です。ペレスは生涯を修道院の台所で過ごし、料理係を務めていました。

ある日、彼は祈りに没頭し、深い霊的恍惚状態に包まれます。その間、彼の体は宙に浮かび、どんどん高く上昇しました。祈りから目覚めると、台所の仕事はすべて奇跡的に終わっていたのです。

物語は絵の左側から始まります。修道院の院長が客人を食事に招き、台所の扉を開けると、そこには光に包まれたジル修道士が恍惚状態で浮かんでいる姿がありました。画面を右へ移すと、水差しかワインポットを持った天使が別の天使と会話し、床には鍋を洗うプッティ[2]がいます。別の天使は食材や香辛料を挽き、さらに右端では客人のために食卓を整える天使の姿も見えます。並べられた食事や食器は、美しい静物画のようです。

背景には落ち着いた色調の別の場面が描かれています。アーチの下でジル修道士が天使と会話しており、その日すべき仕事を説明しているのか、あるいは奇跡に驚いているのかもしれません。

[1] 聖職者ではなく一般信徒として修道生活を送る修道士
[2] 翼のない幼児の天使像
 

霊的な世界を現実に描く

この作品は、実在した修道院の台所を舞台に、食べ物や調理器具、天使たちの肉体性まで細かく描き、奇跡を現実の場面として表現しています。中央の二人の天使は、現実世界とジル修道士が浮遊中に入った霊的領域をつなぐ存在です。宗教研究者たちは、空中浮遊は心の操作ではなく聖性のしるしであり、清らかな精神なしには起こらないと述べています。

前景中央の台座には「この修道院の料理人であり、信心深さで知られたフランシスコ・ペレスは、伝説の聖ジルその人である」と記されています。

この作品は、ムリーリョが署名と日付を記した数少ない作品の一つでもあります。

ムリーリョは、スペイン・バロック芸術の黄金時代に活躍した画家です。セビリア生まれで、幼くして孤児となり、絵を生業としました。名匠ディエゴ・ベラスケスのもとで学び、生涯を通じて謙虚で信仰深くあり続け、スペイン貴族からも支持されました。

ムリーリョにとって霊的な次元は、現実世界と同じほどリアルなものでした。電力会社「エレクトリック・ライト・カンパニー」のウェブサイトでは、この絵を「霊的な奇跡と、労働の場である日常の台所が融合した非常に珍しい作品」と評しています。また、フランスの美術評論家ミシェル・ビュトールは、この作品を「西洋美術史上、決定的な105の傑作」の一つに挙げています。

(翻訳編集 井田千景)