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夏の「赤い食材」で心をととのえる(第2回:スイカ編)

—— 真夏の紅いスイカは、熱を冷まし渇きを癒やす「天然の白虎湯[1]」

日本の七月は酷暑でうんざりしますよね。そこで店頭には待っていたとばかりに、真っ赤でみずみずしいスイカが並びます。多くの人は「喉の渇きを癒やす果物」として食べていますが、実は古くから「天然の白虎湯」とも呼ばれ、体の余分な熱を冷まし、心臓(循環)を守る良薬なのです。

ほてりやイライラを鎮め、気分を落ち着かせ、利尿作用、血圧のコントロールや脳卒中予防にも役立つとされます。

ただし、体を冷やす性質が強いため、食べ過ぎると脾(消化機能)を弱らせ、陽気(体を温める力)を落としてしまうことがあります。自分の体調や体質に合わせ、他の食材との組み合わせを工夫しながら適量を楽しむことで、心身をリラックスさせます。

[1]高熱や強い口渇を冷ます古典的な漢方処方

 

夏は“心火”が盛ん——なぜ特にスイカが必要なのでしょうか?

中医学では「夏の気は火に属し、心(心臓と精神作用)と通じる」と言います。盛夏には「心火」が過剰になりやすく、「心陰」が消耗され、イライラしやすい・口が渇く・眠りが浅い・胸のつかえ・むくみなどの不調が起こりがちです。これは、熱(暑さの邪気)や湿気、そして大量の発汗による気血(エネルギーと血)の消耗が原因とされます。

スイカは味が甘く性質は冷ややか(甘寒)で、赤い色は「心」を穏やかにし、まさに夏の天然の「心を清め火を鎮める食材」「血管(血脈)の掃除役」です。

現代栄養学も、こうした伝統的見方を裏付けています。スイカにはシトルリンが豊富で、血管拡張を促し血圧を調整します。含まれるリコピンは抗酸化作用を持ち、血管老化を抑えて脳卒中や動脈硬化のリスクを下げる可能性があります。さらに多く含まれるカリウムと高い水分量が、利尿による余分な水分・湿気の排出と、心拍リズムの安定を助けます。

これらの成分が総合的に働くことで、スイカは単なる「暑気払い」にとどまらず、心臓や脳血管を守り、血液循環をスムーズにする助けにもなり得るのです。これは古人の言う「赤色は心に入り、潤して通す」という見立てと自然に響き合っています。

スイカは心を清め火を鎮める食材(Shutterstock)

 

スイカは、丸ごと“薬”になります

日本では赤い果肉だけを食べるのが一般的ですが、実は皮や種(仁)も薬膳として活用できます。

1.果肉

体の余分な熱を冷まし、津液(体内の潤い)を生み、喉の渇きを癒やし、利尿を促します。シトルリン、リコピン、カリウムが豊富で、血圧を下げたり血管を拡張したりする作用があります。生の果肉は「火がこもりやすい・口が渇く・イライラする・便秘気味・尿が少なく色が濃い」タイプの方におすすめです。

2.皮

味はやや甘く淡く、性質はやや冷(微寒)で、利尿によるむくみ軽減、ほてり感の緩和、小便を出やすくするのに用いられます。緑豆、ハトムギ、茯苓(ぶくりょう)などと一緒に煮て薬膳スープにすることが多く、湿気をため込みやすい体質に適しています。なお最も外側の硬い濃緑色の皮は通常そぎ取ってから使用し、とくに炒め物やサラダにする場合は完全にキレイにむきます。

3.種の仁

体の乾きを潤し陰を養い、心を落ち着かせるとされます。粉末にしてお粥に加えたり、ユリ根と一緒に煮てスープにしたりします。体の潤い不足(陰虚)で、不眠や夢を多く見る方におすすめです。

スイカの皮や種(仁)も薬膳として活用できます(Shutterstock)

 

5つの食べ方――体質に合わせて選びましょう

1.スイカと紫蘇のサラダ(1人分)

作り方: スイカ果肉100gを角切りにします。紫蘇の葉2~3枚を手でちぎって加え、レモン汁を少量搾り、塩をひとつまみ振って冷蔵し、食べる前にさっと和えます。

効能: 余分な熱と湿気を冷まし、気分をすっきりさせ食欲を高めます。こもった暑さや湿熱が強い人に向きます。

適する体質:体温がやや高め、舌苔が黄く厚い/口臭・ニキビが出やすい方。

 

2.スイカ皮の味噌炒め(1人分)

作り方: スイカの白い内側の皮30gほどを細切りにします。フライパンに少量の油で香りが立つまで炒め、小さじ1の味噌と少量の酒で調味し、味がなじむまで炒めます。

効能: 胃腸を温めつつ湿気をさばき、脾胃を整えます。生ものや冷たいものが苦手な人に、少しの温かさと刺激で消化を助けます。

適する体質: 手足が冷えやすい、下痢気味、舌苔が白くべたつく方。

 

3.スイカの皮入り炒り米“スープ茶”(1人分)

作り方: 薄く切ったスイカ皮30gに、炒った米(または焙じ茶の出がらし代用)大さじ1、 水200mlを加えて10分煮出し、かすを漉して温かいうちに飲みます。

効能: 脾(消化機能)を整え消化を助け、体内にたまった水湿により生じるだるさを和らげます。味はあっさりした玄米茶風です。

適する体質: 食欲不振、疲れやすい、食後の腹部膨満感がある方。

 

4.やまいもとスイカ種の養心お粥(1人分)

作り方: 山芋をすりおろしたもの50g、粉に挽いたスイカ種仁小さじ1、もち米30gを一緒に煮て濃いめのお粥にします。味を整えるために少量のなつめペーストを加えてもよいです。

効能: 体を潤し乾きを防ぎ、心を落ち着かせます。夕食時や夜食に温かくいただくのが特に適しています。

適する体質:口や喉が乾きやすい、ほてり気味、眠りが浅い、皮膚が乾燥しやすい方。

 

5.生姜香るスイカの瓜の味噌汁(1人分)

作り方: スイカ皮20gを角切りにし、刻んだ青ねぎ・豆腐少量とともに鍋に入れ、水を加えて煮立て、味噌と千切り生姜で調味します。

効能: 胃腸を温め冷えを散らし、陽気を守って脾を健やかにし、湿気を追い払う助けになります。朝晩に小椀一杯ずつ飲むと良いです。

適する体質: 冷え性、気力不足、下痢しやすい方。

 

注意点

本当の“心を養う”ことは、ただ冷やして火を取る(熱を下げる)一辺倒ではなく、巡りを良くし潤いを与えることです。冷えたスイカを空腹時に一度に大量に食べるのは避けましょう。脾胃(消化機能)を傷めて下痢を招きやすくなります。常温で食べるか、生姜のお茶(生姜湯)と一緒にいただくのが適します。脾胃が冷えやすい方は、正午の食後に食べるのが望ましく、朝夕は避けると良いです。また、糖尿病の方は血糖変動を防ぐため、必ず医師の指示に従って慎重に摂取してください。

スイカの、血の巡りを良くし、熱を冷まし暑さを払い、水分を補い喉の渇きを癒やす特性を、自分の体質に合わせて適切に組み合わせれば、この赤い甘さは“心身”を養い、涼しくしながらも脾胃を傷つけない、やさしい力となってくれます。

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