(Shutterstock)

夏の「赤い食材」で心をととのえる(第1回:トマト編)

夏にやさしい「清らか果実」 食べて心をととのえ、眠りも深く

盛夏の日本。ぎらぎらと照りつける日差し、絶え間ない蝉の声――。そんななか、知らず知らずのうちに、心も落ち着かず、そわそわしてきた…という方も多いのではないでしょうか。

暑くなると、なんとなく口が渇き、気分がイライラして落ち着かず、夜もぐっすり眠れない。血圧がふわっと上がる感じがしたり、胸が重く感じられたり。夜は頭が冴えて眠れず、朝はぼんやりして元気が出ない――そんな不調、心当たりはありませんか?

中医学では「夏は火に属し、心と通じる」といわれます。

つまり、夏の暑さは、「心」や「神(こころの働き)」に直接影響を与えやすいということ。イライラ、不眠、高血圧、口の渇き、尿が濃くなる――これらは「心火が旺盛」「心の潤いが不足」「血の巡りが悪い」など、“心”の不調のサインなのです。

そんなとき、大自然がそっと差し出してくれるのが、やさしい赤の恵み――トマトです。

 

なぜ夏には“赤い食材”が必要なのでしょう?

中医学の五行説には、「五色は五臓に通ず」という考え方があります。その中で「赤は心に入る」とされ、心は“火”の性質を持ち、血脈を司り、精神を宿す臓器と位置づけられています。

つまり、夏に「心」を養うことは、血を養い、精神を安定させ、体全体のリズムをととのえるために欠かせません。心と脳の血管系のトラブルを予防する上でも重要です。

トマトの赤は、リコピンによる色合いであり、同時に“心経に入る”サインでもあります。酸味と甘味を持ち、 「陰(潤い)を生み、乾きを潤し、熱を鎮め、精神が落ち着く」とされ、夏の“心のほてり”や“心の潤い不足”をやさしくととのえる天然の養生食材です。

また、現代医学の観点からも、トマトにはカリウム、リコピン、ビタミンC、葉酸が豊富に含まれており、

  • 血管をやわらかくし、高血圧の予防に役立つ

     
  • 抗酸化・抗炎症作用があり、動脈硬化を防ぐ

     
  • 疲労回復や気分の安定、睡眠の質の向上にも寄与する

など、さまざまな健康効果が報告されています。

トマトは、スイカのように体を冷やしすぎず、唐辛子のように熱を生みすぎることもありません。さっぱりと潤いながら、穏やかに体を養う――「やさしい赤い果実」なのです。

 

夏にぴったり!トマトの“養心”食べ方4選

① そのまま食べる:暑気払い&心を潤す

心がイライラする、のどが渇きやすい人には、生のトマトがぴったり。

スライスしてレモン汁とひとつまみの塩をかけると体に潤いを与えて、渇きをすっきり癒してくれます。

 → 食べるなら午前中がベスト。空腹時や食べすぎは胃を冷やすので避けて。

(shutterstock)

 

② 和え物にして:陰を養い熱を冷ます

寝つきが悪い、イライラしがちな人には、紫蘇・玉ねぎ・オリーブオイルとの和え物がおすすめ。

→ 紫蘇の温性がちょうどトマトの冷えをやわらげてくれるので、体が弱めの方にも◎

(shutterstock)

 

③ 炒めたり煮たりして:胃腸にやさしく、栄養補給

トマトと卵の炒め物や、豆腐との煮物は、ほんのり甘酸っぱく、食欲の落ちやすい夏にもぴったりです。やさしい味わいで食欲をそそり、体にもやさしい一品。高齢の方やお子さん、夏バテで食欲がないときにもぴったりです。

(shutterstock)

 

④ クコの実と一緒に:心と肝をケア

目の疲れやストレスを感じやすい方には、トマトにクコの実、わかめ、卵や豆腐を加えたスープがおすすめ。

やさしく火を通すことで、体を冷やしすぎず、潤いを守りながら肝の働きを助けてくれます。また、視力ケアにもおすすめです。

 

ひと工夫のコツ:

体が冷えやすい人は、細切りの生姜を少し加えて煮ると、温め効果と巡りアップが期待できます。

 

トマトが合う人・注意したい人

トマトをとくにおすすめしたい人:

  • イライラしやすい、口がよく渇く人
  • 夜よく眠れない、夢が多い、ドキドキしやすい、のどが渇く人
  • 血圧やコレステロールが高めの人、動脈硬化が気になる人
  • 長時間座って作業する人、目をよく使う人

     

注意したい人と食べ方のポイント

・お腹をこわしやすい人、胃腸が弱い人:生ではなく、火を通して食べましょう。しょうがを少し加えると、体を冷やしにくくなります。

・生理痛がある人、手足が冷えやすい人:トマトだけでなく、ねぎ・しょうが・しそ・こしょう・たまご・鶏肉・牛肉など、体を温める食材といっしょに食べましょう。

・空腹のときにたくさん食べるのは避けましょう:胃酸が出すぎて、胃が痛くなることがあります。

 

結びに

ひとつの赤い実が、そっと“心”を守ってくれる

トマトは薬ではないので、すぐにイライラやほてりを消してくれるわけではありません。でも薬よりもやさしく、毎日少しずつ、心を潤し、体のめぐりを整えてくれます。まるで「1日1個の赤い実」が、静かにあなたの心を守ってくれているかのように。

夏の午後、なんだか気分が落ち着かないとき――トマトをひと口、食べてみてください。眠れない夜、心がざわつくとき――トマトと卵のスープが、あなたの眠りをやさしく助けてくれるかもしれません。

関連記事
腎を補う前に――まず胃腸を整える 冬は「水の季節」とされ、体の中では「腎」に関係が深い時期です。ですから冬にな […]
立冬は肺が弱まり腎が冷えやすい季節。今年は金気が不足し肺の働きが乱れやすいため、五臓の調和が重要です。白菜や豚肉を使った温かい料理で脾と腎を温め、気血の巡りを整えましょう。
秋冬は湿気と乾燥が重なり、脾胃と肺が弱りやすく便秘が増える季節。セロリは気の巡りを促し、エリンギは腸を潤し、牛肉は胃腸を温める食材。三つを組み合わせることで、気血が整い、自然な排便リズムが戻ります。
シソは胃腸を整え、体を温め、風邪や寒さから身を守る力を高めます。特に朝に食べると、体の陽気が自然に立ち上がり、秋冬の風邪予防に効果的。朝食に取り入れたい伝統の養生法です。
中医学の養生は、体を自然界のように調和させる「気候調整」の学問。五行の働きが乱れると病が生じ、整えば健康が戻る。季節と連動した「人体の気候」を理解することで、日々の食と生活に新たな視点が生まれます。