がん治療に塩が有効?最新研究が明かす新事実

日常的に食べている塩が、がん治療の進展に繋がる可能性があるのでしょうか?

8月28日に『Nature Immunology』で発表された2つの新しい研究は、塩分の増加が免疫細胞のがん殺傷能力を大幅に向上させることを発見しました。

2つの研究のうちの1つでは、高塩分食を摂取したマウスが腫瘍のサイズを縮小させたことも確認されました。

「塩分がむしろ免疫細胞の活力、代謝、殺傷機能を向上させ、マウスモデルでの腫瘍の成長を抑える結果になったことに驚きました」と、研究の主導者であるクリスティーナ・ツィーリンスキー博士はエポックタイムズにメールで語っています。

ツィーリンスキー博士は、塩ががんを殺す細胞の効果を高める「驚くほど簡単で見過ごされていた要因」であることが分かったと述べています。

ただし、研究者たちは、塩を増やすことでがんに対する免疫反応を活性化させることを目的とした人間への推奨は行っていないと付け加えています。

 

塩がキラーT細胞を活性化

ライプニッツ自然製品研究所の研究者たちは、食塩に含まれるナトリウムがT細胞の活動を大幅に高めることを発見しました。T細胞は、がん細胞と戦う免疫細胞の一種です。

特にCD8+T細胞は、がん細胞を特定し、直接攻撃して破壊する重要な役割を担っています。ツィーリンスキー博士の研究によれば、がん細胞が多く含まれる乳がん組織には、健康な組織よりも高いナトリウム濃度が見られ、塩を加えることでT細胞によるがん細胞に対する攻撃力が高まり、患者の生存率が向上する可能性が示されました。

塩で処理されたT細胞を使った実験では、T細胞が糖やアミノ酸をより効率的に利用し、がん細胞をより効果的に排除できるようになったことが確認されました。

研究の共著者であるチャン・フェン・チュー氏は、「ナトリウムがCD8+T細胞の免疫応答を強化することがわかりました」と述べています。

さらに、「塩で処理されたT細胞を使ったマウスでは、膵臓の腫瘍が縮小しました」とチュー氏は述べ、塩がT細胞の代謝とエネルギーを向上させた結果だとしています。

 

高塩分食でマウスの腫瘍が縮小

イタリアのIRCCSフマニタス研究病院のエンリコ・ルグリ氏が主導した別の研究では、細胞培養に塩を加えることでキラーT細胞が活性化され、その寿命と抗腫瘍効果が向上することがわかりました。

高塩分食を与えられたマウスでは、キラーT細胞の活動が向上し、腫瘍の成長が抑えられたと報告されています。

ルグリ氏は、塩を加えることでキラーT細胞が早期に疲弊するのを防ぎ、代謝とエネルギーを改善することで、がんに対する効果が高まると述べています。

さらに、塩を加えると、免疫療法薬を投与した場合と同様にキラーT細胞の活性が高まることが確認されました。

研究の共著者である腫瘍学者アニェーゼ・ロスルド氏は、血中のナトリウム濃度が高いと、がん免疫療法の効果が向上することが示唆されていると述べています。

ただし、著者らは、高塩分食が心血管系に与える影響を考慮すると、この方法をそのまま人間に適用するのは難しいと警告しています。その代わり、キラーT細胞を移植する前に短期間高塩分環境にさらすことでがん治療に利用できる可能性があると提案しています。

ルグリ氏は、「ナトリウム塩化物がキラーT細胞の機能に大きな影響を与えることがわかりました」と述べています。

チームによると、これらの結果は有望ですが、臨床の場での確認が必要だということです。

 

注意が必要

これらの発見は、塩ががん細胞に対する免疫反応を強化する可能性を示唆する証拠をさらに強化しています。2019年のベルギーの研究でも、高塩分食を与えたマウスで腫瘍の成長が遅れたことが確認されています。

しかし、注意が必要です。ルグリ氏は、単に食事の塩分を増やすだけでは同じ効果は得られず、逆に健康に害を及ぼす可能性があると警告しています。

今年の初めの研究では、食べ物に塩を頻繁に加える人は、そうでない人に比べて胃がんのリスクが41%高いことが示されています。過剰な塩分摂取は、心血管疾患、慢性腎臓病、骨粗鬆症、胃がんにつながる可能性もあります。

ルグリ氏は、研究で見られた効果は、体外での塩濃度を操作して免疫細胞の活動を強化することに関するものであると説明しています。ツィーリンスキー博士も同意見で、免疫細胞を患者に注入する前に、制御された環境で高い塩濃度にさらすことに重点を置いていると述べています。

両研究チームは、これらの発見を臨床現場にどう応用できるかを今後探求していく予定です。

 

(翻訳編集 華山律)