体重が減らない原因は食べ過ぎや運動不足だけではない

食事制限をせずとも、知らぬ間に体重を減らせる方法とは?(上)

新型コロナウイルス感染症が世界中で猛威を振るっていた2021年、私はスイスのこじんまりした静かな町に一人で暮らしていました。家族に料理を作る責任から解放され、賑やかな通りの喧騒に煩わされることもなく、鳥のさえずりを聞きながら平和な時間を楽しんでいました。

毎朝のルーティンは8時の朝食から始まります。牛乳200mlと卵1個、トースト1枚と決まっていました。仕事は9時から始まります。私の主な仕事は、影響力のあるテレビ局の生放送に毎週出演し、新型コロナの流行に対処するための科学的・医学的な専門知識を伝えることでした。

責任が大きく緊急を要する仕事でしたので、集中するあまり食事のことを忘れてしまい、午後4時ごろにようやく空腹に襲われるといったこともよくありました。

それから2週間後、大きな変化に気づきました。体重が56kgから49kgへと7kg減り、BMIが23.2から20.4へと減少していたのです。

食べる量を減らしたのもありますが、意図せず体重が減った最大の要因は、仕事に集中し続けたことでした。

なぜ集中し続けることが減量に役立ったのでしょうか?体重を無理なく減らす方法は他にもあるのでしょうか?

今回は、私がこのテーマに関する調査を通して発見したことについてお伝えしたいと思います。

深刻化する問題

今日、アメリカの成人の3人に1人が過体重の状態にあります。この問題に対して取り組みが進んでいるものの、肥満の発生率は著しく増加しており、1960年代の14%から2018年には40%へと3倍に増えています。

過体重は、高血圧や糖尿病、脂肪肝、ウイルス感染といった慢性疾患のリスクを高めます。さらに肥満になれば、病気とみなされます。

過体重の人は悪しき食習慣を改善するよう勧められます。ジャンクフードを控え、自制心を高めないといけません。しかし、おいしい食べ物やネットの気晴らしなど、底なしの誘惑に満ちた現代社会では、食事や運動で体重を管理するのは困難です。

こういった課題に直面すると、多くの人が痩せ薬に惹かれます。

最初の減量薬であるオシミア(Osymia)が承認され、後に発がんリスクに係る安全性への懸念から撤回された2012年以降、アメリカ食品医薬品局(FDA)は6種類の減量薬を承認しています。

これらの薬の半数は、グルカゴン様ペプチド-1(GLP-1)経路を活性化することによって作用します。GLP-1は膵臓を刺激してインスリンを分泌させるホルモンです。GLP-1受容体作動薬(GLP-1RA)はGLP-1の作用を模倣し、2型糖尿病と肥満を治療します。該当するのは以下の薬剤です。

  • サクセンダ(医薬品名:リラグルチド/ビクトーザ)
  • セマグルチド(注射薬:オゼンピック/ウゴビー、経口薬:リベルサス)
  • チルゼパチド(医薬品名:モンジャロ)

以下の薬剤は、上記の薬剤とは異なる代謝メカニズムを通じて作用し、食物の摂取または吸収を減少させます。

  • オルリスタット(医薬品名:ゼニカル/アリ):腸管からの脂肪の吸収を阻害する
  • フェンテルミン・トピラマート(医薬品名:Qsymia):食欲を減退させ、早期に満腹感を誘発する
  • ナルトレキソン・ブプロピオン(医薬品名:コントレイブ): ナルトレキソンはアルコールや薬物依存に、ブプロピオンはうつ病や禁煙に用いられ、どちらも食欲と嗜好を抑える

これらの減量薬には主に2つの懸念があります。

第一に、効果を持続させるためには長期間の使用が必要となる場合が多く、使用を中止すると体重が戻ってしまう可能性があります。また、薬剤によっては筋肉量や脂肪の減少に影響を与えたり、栄養素の吸収に影響を与えたりする可能性があるため、使用の際にはこれらの要因を考慮しなければなりません。

さらに、現在進行中の研究では、GLP-1 RAと自殺未遂との関連性や、甲状腺がんとの関連性について検証されています。

多くの人にとって、減量薬は非常に気軽なものです。特に現代の誘惑とストレスの多い環境では、食事制限は負担になります。自由に食べられないというストレスから過食につながり、終わらない悪循環に陥ることもよくあります。

悪循環

太りすぎは単なる体型の問題ではありません。より深くに根本的な理由があります。

肥満の人は、脂肪組織の炎症など、慢性的な低レベルの炎症を経験することがよくあります。これが長期化すると、脂肪が増大してインスリンに対する反応が弱まります。その結果、脂肪が蓄積すべきでない組織や臓器に蓄積し、さまざまな健康上の問題を引き起こします。

さらに、肥満の人は、神経質、不安、抑うつ、ストレスなど、精神的な不調を抱えることもよくあります。

私たちの心と体は複雑に関係しています。ネガティブな感情は、インターロイキン-6、腫瘍壊死因子-α、C-反応性タンパク質などの炎症マーカーを通じて、体内の慢性炎症を悪化させる可能性があります。

この複雑に絡み合った問題に対しては、心と体の両方を根本的に変えることでしか対処できません。

集中の効用

脳生物学によれば、集中しているとき、私たちの精神は最高の状態になるといいます。

ある研究によれば、皿洗いのような単純作業に集中するだけで、ネガティブな感情を抑え、気分を高めることができるそうです。

ユタ大学のE.L.ガーランド氏とEducational Psychology & Learning SystemsのA.W.ハンリー氏が、51人の大学生に2時間皿洗いをさせる実験を行いました。

彼らは無作為に2つのグループに振り分けられました。一方の25人の学生は、シンクに水を溜め、食器を洗うといった洗い方の手順について説明と指導を受けました。

残り26人の学生には、皿洗いにおける態度とマインドフルネス(現在の経験に意図的に意識を向けること)の重要性を教えました。この作業が時間の浪費や退屈な家事ではなく、大切にすべき時間であることが強調されました。

マインドフルな状態で皿を洗った学生たちは、「鼓舞」というポジティブな感情が25%増加し、「緊張」というネガティブな感情が27%減少しました。

マインドフルな状態で皿を洗った学生たちは、緊張の度合いが1.69対1.23(p値=0.003)と有意に減少し、鼓舞の度合いが2.12対2.65(p値=0.02)と有意に増加したことを報告した (The Epoch Times)

作業に集中する以外にも、座禅などのマインドフルネスの実践は、炎症を抑える効果的な方法です。瞑想によって何百もの遺伝子の発現プロファイルが変化し、私たちの身体が炎症状態からより健康的な状態に移行することは、科学的に明らかにされています

退屈や空腹を感じることなく、ある仕事や活動に完全に集中しているとき、その状態はしばしば「フロー状態」と呼ばれます。

続く(下)ではまず、このフロー状態について見ていきます。

エポックタイムズのシニアメディカルコラムニスト。中国の北京大学で感染症を専攻し、医学博士と感染症学の博士号を取得。2010年から2017年まで、スイスの製薬大手ノバルティスファーマで上級医科学専門家および医薬品安全性監視のトップを務めた。その間4度の企業賞を受賞している。ウイルス学、免疫学、腫瘍学、神経学、眼科学での前臨床研究の経験を持ち、感染症や内科での臨床経験を持つ。