脳卒中リスクが4.5倍に? 微小プラスチックの脅威

研究結果によれば、マイクロプラスチックは至る所に存在しており、心臓の動脈硬化のプラーク内にも見られることが明らかになっています。これは心臓疾患による健康リスクを大幅に高める要因となります。

環境中のマイクロプラスチック汚染に対する社会的な関心が高まっています。研究結果によれば、マイクロプラスチックが人体に侵入すると、心筋梗塞や脳卒中、場合によっては死に至るリスクが高まります。私たちの日常行動の中で、どのような習慣がマイクロプラスチックを体内に取り込むリスクを上げるのでしょうか?

アメリカのウイルス学専門家で微生物学博士のリン・シャオシュ氏が、新唐人テレビ「健康1+1」番組で、マイクロプラスチックとナノプラスチックの定義と、それらへの暴露を減らす方法について解説しました。

プラスチックは工業生産に不可欠な素材であり、私たちの日々の生活にも密接に関わっています。プラスチック製品が劣化して分解すると、5ミリメートル未満のマイクロプラスチックや、さらに小さな1ミクロン(1000ナノメートル)以下のナノプラスチックに変わります。
 

マイクロプラスチックの発生源

リン氏は、日々使用するプラスチック製品からマイクロプラスチックが発生すると述べました。合成繊維からは繊維片が剥がれ落ち、使い古されたタイヤからはプラスチックを含んだ粉塵が出ます。また、表面が滑らかに見えるプラスチックの水筒でも、洗う過程でマイクロプラスチックが剥がれ落ちることがあります。

プラスチックの水筒でも、洗う過程でマイクロプラスチックが剥がれ落ちることがある(Shutterstock)

 

自然界では、太陽の光や紫外線が常にプラスチックを細かい粒子にまで分解しています。衣類、衛生用品、ボトル、袋、工場からの排出物、タイヤの摩耗粉、漁網などが微小プラスチックの汚染源となっています。

これらの粒子は、人間や他の動物が摂取するものもあれば、海や土壌に蓄積されて分解されるものもあります。貝類や小型の魚、エビなど、特に海岸近くに生息する海洋生物は微小プラスチックを摂取しやすいとされています。

リン氏は、マイクロプラスチックの主要な発生源は工業廃棄物と廃水の排出であると指摘し、これらが適切に処理されなければ、環境に深刻なダメージを与えると述べました。

そのため、工場からの排水が環境に放出される前に、ふるい分け、砂取り、沈殿(固形物や浮遊物質を自然に沈降させるプロセス)、生物反応、塩素消毒、紫外線処理、膜処理技術など、マイクロプラスチックを90%以上取り除くためのさまざまな処理工程を経る必要があります。

しかし、マイクロプラスチックを完全に取り除くことは不可能です。自然界では、これらの微小なプラスチックが完全に分解されるには、数千年から数万年もの長い時間がかかるとされています。
 

マイクロプラスチックの健康被害

マイクロプラスチックは、食べ物や飲み物を通じて体に取り込まれることが多いのです。一方、ナノプラスチックは呼吸によって吸い込まれる可能性があります。粘膜を直接刺激するだけでなく、マイクロプラスチックは細菌やウイルスなどの環境微生物を体内に搬入させます。

「有害物質を摂取してしまった場合、すぐに洗い流すべきだとよく言われますが、マイクロプラスチックは胃の壁にくっつく非常に微細な粒子なのです。洗い流したからといって、それらは完全に除去できません。体はそれらを徐々に排出する必要があり、その結果、体への負担が増えるのです」とリン氏は述べています。

自然界で紫外線にさらされたり微生物に分解されたりすると、マイクロプラスチックは吸着力が増し、表面にさまざまな環境汚染物質が結びついて複合体を形成します。これにより、生物に対する毒性は高まることが研究で明らかになっています。

マイクロプラスチックは、体内に侵入すると重金属や病原体を運ぶ役割を果たし、さまざまな有害な影響を及ぼします。食べ物から摂取されるマイクロプラスチックの大部分は便として排出されますが、ごく少量が腸内に数日間残り、腸の損傷や炎症、腸内フローラのバランスを崩す原因となります。

時間が経過すると、マイクロプラスチックは腸壁の細胞に吸収され血液に入り込み、肝臓や腎臓などの臓器や、免疫システム、生殖システム、神経システムなどの体のさまざまなシステムにダメージを与えます。また、マイクロプラスチックを過剰に吸い込むことは、呼吸器の組織に損傷を与え、病気を引き起こすリスクがあります。

3月、ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシンに掲載された研究結果によると、大多数の頸動脈のプラーク内にマイクロプラスチックが含まれていることが明らかになりました。この研究は、症状のない頸動脈狭窄を抱える18~75歳の257人の患者を対象に行われました。

プラークを動脈から取り除いた後、研究者は150人の患者(全体の58.4%)からポリエチレンを、31人の患者(12.1%)からポリ塩化ビニルをそれぞれ検出しました。

大多数の頸動脈のプラーク内にマイクロプラスチックが含まれていることが明らかになった(Shutterstock)

 

プラークに存在するマクロファージは、鋭利な端を持ち、塩素を含む外来粒子が視認できました。研究によると、マイクロプラスチックが検出された患者は、検出されなかった人々に比べて心筋梗塞、脳卒中、あるいは死亡のリスクが4.5倍以上も高かったとされています。
 

米国議会、
マイクロプラスチック問題に対して懸念

2月27日、米国上院の環境及び公共事業委員会は、水中の微小プラスチックについての公聴会を行いました。

オレゴン州立大学農学部のスザンヌ・ブランダー准教授は、約10年間マイクロプラスチックとプラスチック汚染に関する研究を行っていますが、この公聴会で、マイクロプラスチックが人間の心臓、胎盤、肺の組織に存在し、血液を通じて体内を循環していることを明らかにしました。

これらの微小なプラスチックは、海洋生物や陸上生物に悪影響を及ぼし、成長の遅れ、行動パターンの変化、生殖機能の障害を引き起こし、特に哺乳動物にとっては深刻な影響を与えています。

彼女は、プラスチック汚染が人類にとって最も深刻な環境問題の一つであり、また世界で「最もコストがかかる」問題の一つだと述べました。

この問題は、漁業、観光、船舶業界に毎年約130億ドル(約1万8720億円)の経済的損害をもたらしています。2018年、アメリカにおけるプラスチックに含まれる化学物質による健康被害の医療コストは、最大で2490億ドル(約35万8560億円)に上ると推定されています。
 

マイクロプラスチックの摂取を避ける方法

私たちは日々の生活でマイクロプラスチックをどのように減らせるのでしょうか? リン氏は以下のような予防策を勧めています。

水をろ過する マイクロプラスチックを取り除くために、高性能の浄水フィルターを使用することが重要です。細かい穴があり、マイクロプラスチック除去用に特別設計されたフィルターを選びましょう。

高性能の浄水フィルターを使用し、水をろ過する(Shutterstock)

 

プラスチック容器を避ける ガラスやステンレス製の水筒を使用することをお勧めします。プラスチックボトルは熱や直射日光によってマイクロプラスチックを放出します。また、食品の保存にはプラスチックではなくガラス製の容器を使用すると良いでしょう。ガラスはマイクロプラスチックに分解されず、食品を安全に保管できます。

食品の包装に注意する 包装済みの商品よりも、新鮮で包装されていない農産物を選んでください。包装された商品を購入するときは、プラスチックではなくガラスや段ボールで包装されたものを選ぶようにしましょう。

加工食品はプラスチック包装が多く、マイクロプラスチックの含有量が高いことがあります 自宅で新鮮な食材を使った料理をすることで、マイクロプラスチックへの暴露を減らすことができます。

使い捨てプラスチックは環境汚染の原因となり、時間が経つにつれてマイクロプラスチックに分解されます プラスチック製のカトラリーやストロー、バッグなどの使用を控えましょう。

合成繊維は洗濯時にマイクロプラスチックを放出することがあります 綿、羊毛、絹などの天然繊維を選び、マイクロファイバーを捕捉する洗濯ネットを使用することを推奨します。

手を頻繁に洗う 手袋の内側に残るプラスチックが手に移ることを防ぐため、手を頻繁に洗うことが大切です。

化粧品をよく選ぶ  化粧品に含まれるマイクロプラスチック、例えばスクラブクリームのマイクロビーズやメイクアップ製品のグリッターには注意し、自然由来の製品を選ぶようにしましょう。

 

(翻訳編集 柴 めぐみ)

Ben Lam