昔々、ある遠い国に貧しい靴職人が住んでいました。彼の背中には大きなこぶがありました。
ある日、彼は靴を売りに遠くの町へと出かけました。帰り道、疲れてゆっくりとしか歩けず、まだ森を抜けきらないうちに日が暮れてしまいました。
「こんな暗がりのなかを歩いても、木にぶつかってケガをするだけだろう。たしかこの近くに穴のあいた大きな木があったはずだ。今夜はそこにもぐりこんで寝るしかないな。夜が明けたら急いで家に帰ればいいだろう」
ほどなくその大きな木は見つかり、靴職人は穴のなかに入って深い眠りに落ちました。
夜も深まったころ、靴職人は物音で目を覚ましました。外をのぞいてみると、まんまるいお月様が森を明るく照らし出しています。驚いたことに、そこではたくさんの小人が踊っていました。
靴職人は怖くて動くこともできず、ただ風変わりな小人たちを眺めているだけでした。するとみんな楽しげで優しそうだとわかったので、彼も穴から出ていっしょに踊りはじめました。
靴職人がいっしょに踊ったり、お話をしてあげたり、歌を聞かせてあげたりすると小人たちは喜び、靴職人も楽しい時をすごしました。
小人の王様が言いました。「そろそろお別れです。一番鶏が鳴いたら私たちは帰らなければなりません。あなたのような楽しいかたと友達になれてとても嬉しいです。ぜひまた会いに来てください」
こう言って、王様はすばやく靴職人の背中からこぶをもぎ取りました。「あなたが必ずまた来てくれるように、これは預かっておきます。お月様がまるくなったらまた来てください。この素敵なこぶをお返ししますから」
王様は、靴職人がこぶを自慢に思っていて、なくしたくないだろうと思ったのです。
そのとき一番鶏が鳴き、すぐに小人たちの姿は見えなくなりました。
靴職人は大急ぎで家に帰りました。背中のこぶがなくなって、どれほど嬉しかったことでしょう!
近所の人たちは、背中をまっすぐのばして歩いてくる靴職人を見ると、驚いて集まってきました。靴職人が自分の身に起きた不思議な話を聞かせると、みんなが喜びました。ただ、欲ばりな仕立て屋だけは違いました。喜んでいる靴職人が気に入らなかったのです。
次にお月様がまるくなったとき、欲ばりな仕立て屋はあの大きな木のところに行き、穴にもぐりこみました。「おれも小人に歌を聞かせ、いっしょに踊り、話をしてやろう。やつらを十分楽しませたところで頼めば、金をたくさん出してくれるに違いない」とほくそ笑みました。
夜が深まり、月の光が一番明るくなったころ、小人たちは現れました。仕立て屋が穴から出ていくと、喜んで迎えられました。小人たちは友達の靴職人がまた来てくれたと思ったのです。
仕立て屋は小人たちと踊り、歌を聞かせ、話をしてやり、みんなで楽しい時をすごしました。
そろそろ夜が明けようとする頃、小人の王様は仕立て屋を呼び寄せました。
「いよいよチャンスがきたぞ。もうすぐおれは大金持ちになれるんだ」と欲張りな仕立て屋は思いました。
すると王様は言いました。「あなたは本当に素敵な方だ。約束を守ってくださったので、私も約束どおりあなたにこぶをお返ししましょう」
そう言うと、王様は靴職人のこぶを仕立て屋の背中にくっつけました。そのとき一番鶏が鳴き、小人たちの姿は消えてしまいました。
このようにして、欲ばりな仕立て屋は人の幸せをねたんだ報いを受けました。
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