トルクメニスタンは、石油と天然ガスに恵まれた中央アジアの内陸国です。この国にある巨大なガスの充満したクレーターが、半世紀以上も火を噴き続けています。 地元では「地獄の門」(Door to Hell)として知られており、人気の観光スポットです。そこを訪れる多くの人は、中がどうなっているのかと、探究心をそそられながら訊ねるのです。
「地獄の門」は首都アシガバードから約260キロ離れたところにあり、カラクム砂漠の中央部に位置しています。この地域には大量の石油と天然ガスが埋蔵されています。
1971年にソ連の地質学者がこの地域で掘削を行い、ガスが充満した穴を発見した時、掘削装置の下の地盤が崩壊し、直径69メートル、深さ30メートルのクレーターができたと言われています。
探検家たちは、クレーターから漏れ出す有毒ガスが、近隣の町の住民に影響を及ぼすことを心配し、天然ガスに火をつけました。数日でガスは燃え尽き、炎は消えると思われていましたが、なんと炎は50年以上も燃え続けているのです。
地獄の門の奥深くへ
2013年11月、ナショナル・ジオグラフィック・チャンネルと旅行会社がスポンサーとなり、カナダの探検家ジョージ・コロニスさんが、防護服を着て地獄の門の入門を試み、史上で初めてクレーターに足を踏み入れました。
コロニスさんは、科学者がこのような過酷な環境で、どのように生存できるのかを探究するため、クレーター底の土壌サンプルを集めてきました。これは、生命が宇宙の同じような条件下で、生存できるかどうかを探るのに役立つかもしれません。
『ナショナル・ジオグラフィック』誌は、ドキュメンタリー番組『ダイ・トライイング』のエピソードでコロニスさんを取り上げ、彼が「地獄の門」に足を踏み入れた様子を紹介しています。
『ナショナル・ジオグラフィック』誌には、コロニスさんがこの探検のために、2年間計画を練っていたと記しています。彼はわずか17分という短い時間で、天然ガスのデータと土壌サンプルを得なくてはならなかったそうで、その17分間で経験したこと全ては、彼の脳裏に刻み込まれたといいます。
彼はその時のことをこう振り返っています。「思っていたよりも怖くて、熱くて、大きかったです」
「地獄の門はメディアや政府の注目を集めています。 トルクメニスタンでナンバーワンの観光名所となり、観光利益をもたらしていますが、時には恥ずべき同国の二酸化炭素排出問題の象徴とみなされることもある」と彼は語っています。
地獄の門にはエイリアンがいるのか?
2022年のナショナル・パブリック・ラジオのインタビューで、コロニスさんは「地獄の門」に入るのは別の惑星にいるようなものだと語りました。砂漠にある火山のようですが、マグマが転がり落ちていないだけであり、 メタン(天然ガスの主成分)は何十年も燃え続けています。
「地獄の門」でエイリアンのような生命体を発見したかと尋ねると、コロニスさんは、メタンが充満した高温の環境で、非常に古い極限環境微生物のいくつかの種を発見したと答えました。彼の測定によると、クレーターの底の温度は、かつて摂氏400度にも達していたといいます。
彼は、これらのバクテリアは、確立されたDNAデータベースにはなく、メタンを消費することで生存しているものだろうと述べました。したがって、これは人類の生存にはまったく適さない環境における非常に稀な生活方式といえます。
彼はまた、世界で12人が月面に行ったが、「地獄の門」に入る幸運に恵まれたのは自分だけだと述べました。 彼はギネス世界記録(通称ギネス)の認定証を、記念に机の上に飾っています。 彼はそれを見るたびに興奮し、喜んでいるそうです。
「地獄の門 」の不確かな運命
トルクメニスタンが1991年に独立して以来、政府は「地獄の門」の炎を消そうとしてきました。 専門家によれば、トルクメニスタンの天然ガス漏れ問題において、「地獄の門」は氷山の一角に過ぎないといいます。 トルクメニスタンは人口わずか600万人にもかかわらず、世界最悪の大気汚染国のひとつとされています。
トルクメニスタンのグルバングリー・ベルディムハメドフ大統領は2010年4月、「地獄の門」のあるデルウェゼ村を訪れ、洞窟の閉鎖を命じました。 また、2022年1月には、国民の健康のために「地獄の門」の火を消すよう命じました。しかし、洞窟の炎は、まだ鎮火されていないのです。
『ナショナル・ジオグラフィック』誌によると、「地獄の門」の火を消すには2つの条件が必要だといいます。 ひとつはすべての炎が消えること、もうひとつは天然ガスが地層から抜けるのを食い止めることです。前者は後者よりも簡単といえるでしょう。
以前、爆発物を爆発させて天然ガスの井戸を消火したことがありますが(爆発によって酸素を除去し、炎を抑える)、これが「地獄の門」に通用するかどうかは不明です。この方法を使うとすれば、おそらく非常に大きな爆弾が必要になり、国際的な支持を得るのは難しいでしょう。
コロニスさんからすれば、これは最も愚かな行為であるといいます。また彼は、これにより天然ガスが他の場所から漏れてしまうのではないかと疑っています。
「地獄の門」の火を消そうとすれば、トラブルや危険を招き、結局は何もできない、というのが専門家の意見のようです。そのため、何もしないことが最善の選択と言えるかもしれません。
コロニスさんは、私はトルクメン政府に、このまま燃え続けるのを見守るように助言したと言います。 しかし、「地獄の門 」に対する政権の見方が常に変化する中、その運命は不透明です。 「何が起こるか誰にもわからない」と彼は言います。
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