人間の創傷治癒の過程は複雑で非常に入り組んでいます。止血、炎症、増殖、再形成という4つの段階を経て、それぞれが正しい順序とタイミングで完了しなければいけません。しかし、残念ながら、この過程を妨げる要因は数多くあり、傷がきちんと治らないことも珍しくありません。
止血の際には、血管が収縮して血小板が集まり、出血を止めることができます。その後、感染防御のために炎症細胞が流入し、メディエーター(化学伝達物質)やサイトカイン(生理活性物質の総称)が放出され、新しい血管の形成(血管新生)、血液凝固、新しい上皮の生成を誘発する炎症期が続き、増殖期へと移行します。
この過程は数週間続き、創傷治癒の重要な部分である肉芽組織の形成も含まれます。最終段階であるリモデリング(組織の再構築)は、最初の傷の回復から約3週間後に行われます。適切に機能すると仮定すれば、傷が完全に治癒するまで、回復が1年程度続くこともあります。しかし、実際には、創傷治癒に影響を与える要因は数多く存在します。
年齢、ストレス、喫煙、栄養、アルコール摂取、薬、糖尿病や肥満などの健康状態は、すべて治癒の過程を妨げる可能性があり、この場合、健康問題に対処することが傷の解決につながります。そこで、今から紹介するのは、傷の治癒を助ける天然化合物の数々です。家庭で用意できるものばかりですので、ぜひ参考にしてみてください。
最も優れた創傷治癒薬
以下は、創傷治癒に有効であることが科学的に証明されている天然治癒成分です。
1.ハチミツ
ハチミツは広く使われている抗菌剤で、プロスタグランジン(生理活性物質)のレベルを下げ、一酸化窒素の最終的な産生を増加させますが、この過程は傷の治癒能力を助けるのに役立っています。
2021年に『小児集中治療医学(Pediatric Critical Care Medicine)』に掲載された論文によると、褥瘡(じょくそう)を持つ重症の子供を対象とした臨床試験で、マヌカハニーで治療した子供は、標準治療のみを受けた子供に比べて1.9倍も完治する確率が高いことがわかりました。
また、ハチミツで治療した患者は、完治までの期間が標準治療群の9日間に対して7日間と短く、アレルギー反応や細菌の二次感染も確認されませんでした。
2. アロエ
アロエには抗炎症、抗潰瘍、抗菌、抗真菌作用があり、創傷治癒におけるその役割はよく知られているところです。アロエの化合物であるアロエエモジンは、創傷治癒の炎症期、増殖期、再形成期に影響を与え、動物実験では創傷治癒率を促進することが示されています。また、アロエジェルは、糖尿病性潰瘍の治療にも有効で、帝王切開の傷の治癒にも効果があるとされています。
22年に「民族薬理学雑誌(Journal of Ethnopharmacology)」に掲載された研究では、アロエジェルとアロエの花の混合物を使用した場合にも、大きな創傷治癒効果があったことが報告されています。ラットを使った研究では、アロエを経口投与しただけでも傷の治りが早くなることが分かりました。
(つづく)
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