乳がん細胞は夜行性で、患者さんが寝ているときにがん細胞が血流に乗って速く広がるという新しい研究結果が発表されました。この研究では、夜間にがん細胞を狙い撃ちする治療法が有効であると推測しています。

乳がんは罹患数が世界最多のがんであり、2020年には世界で230万人が乳がんと診断されました。乳がん患者のうち、99％が女性で、そのほとんどが40歳以上です。

乳がんの治療を成功させるためには、早期診断が重要なポイントになります。 乳管や小葉に限るがんは、転移する可能性が低く、通常は効果的に治療することができます。

しかし、乳がんが循環腫瘍細胞（CTC）を生成し始めると、がん細胞は血流に乗って全身に広がり、転移性腫瘍や二次性腫瘍を形成する可能性があります。そうなると癌の治療が難しくなります。

このたび、チューリッヒ工科大学、バーゼル大学病院、バーゼル大学の研究チームは、患者の睡眠中は、起きているときよりもずっと速くCTCが拡散・分裂することを発見しました。
この研究は、転移性乳がんに時間制御型治療が有効である可能性を示唆するもので、雑誌『ネイチャー』に掲載されました。

まず、早期（非転移性）乳がん患者21名とステージIVの転移性乳がん患者9名の計30名の女性を調査しました。研究者たちは、午前10時（活動時）と午前4時（睡眠時）に女性たちから血液サンプルを採取しました。驚いたことに、80％近くのCTCが睡眠中に採取された血液サンプルから検出されたのです。

そして、乳がんマウスで同じ実験を行いました。マウスでは、夜行性の哺乳類が休んでいる日中に採取したサンプルに、CTCが多く存在することがわかりました。マウスの概日リズムは人間と逆であるためです。

さらに、CTCは患者の安静時に他の時間帯よりも有糸分裂や細胞分裂のための遺伝子を多く発現し、その結果、がん細胞がより転移・拡散しやすくなることを発見しました。 また、原発性乳房腫瘍の細胞は、安静時の方がより速く増殖しました。

CTCが夜間に速く移動することがわかったことで、乳がんの診断と治療の両方に役立つ可能性があります。

本研究を主導したチューリッヒ工科大学分子腫瘍学教授のニコラ・アセット（Nicola Aceto）氏は、これらの知見は、医療従事者が生検を行う際に体系的に記録する必要性を示しているかもしれないと指摘しています。

英国の慈善団体ブレストカンサーナウ（Breast Cancer Now）の高度研究普及マネージャーであるコルトリナ・テムスナイテ（Kotryna Temcinaite）博士は、今回の調査結果は、乳がんの治療時間帯が重要であることを証明していると述べています。

アセット教授とそのチームは、他のがんにも同様の特徴があるかどうか、また、治療のタイミングを変えることでより効果的な治療が可能かどうかを調査する予定です。

（翻訳・李明月）