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乳がんの予防と最新治療、専門医と患者の体験談を紹介（Shutterstock）

乳がんと向き合う　専門家の視点と医師の闘病記

2025/02/05
Ben Lam, JoJo Novaes

乳がんは、世界中の女性にとって深刻な健康問題です。近年では、若い世代の女性の発症も増えています。NTDの健康番組「Health 1+1」では、ノースショア・ロングアイランド・ユダヤ医療センターの腫瘍専門医ウェイ・リーホン医師と、イェール大学医学部付属のイェールがんセンター所長エリック・P・ワイナー医師が、それぞれの立場から乳がんの予防、診断、治療について語りました。

また、台湾の中国医薬大学附属病院で乳腺外科医を務め、自身も乳がんを経験したチョン・ユーシュー医師が、闘病生活の中で患者がどのように人生を見つめ直すのか、自らの体験を交えて語りました。

医師が体験した乳がん――自身の闘病から学んだこと

チョン医師は、2019年6月のある日曜日、自分の胸にしこりを見つけました。すぐに検査を受けることにしましたが、結果は受け入れがたいものでした。彼女は乳がん、それも最も悪性度が高い「トリプルネガティブ乳がん（TNBC）」と診断されたのです。このタイプの乳がんは進行が速く、再発や転移のリスクが非常に高いことで知られています。治療も過酷なものになります。

診断を受けた直後、彼女が最初に考えたのは「この事実を隠したい」ということでした。自分が乳腺外科医でありながら乳がんを患うことに、どこか「個人的な失敗」のような気持ちを抱いてしまったのです。

しかし、その後の治療は決して順調なものではありませんでした。4回目、5回目の化学療法の際には感染症を起こし、ショック状態に陥りました。緊急治療が必要となり、集中治療室（ICU）に入院することになったのです。

病気を隠そうと努力していたものの、同僚たちは彼女の変化に気づいていました。そんな中、精神科医のサポートを受けながら、限られたグループ内で自らの体験を話し始めました。そこでは多くの励ましと温かい言葉を受け取ることができました。

その後、彼女は積極的に化学療法などの治療を受けましたが、副作用にも苦しみました。免疫力の低下、口内炎、皮膚の発疹、爪の変形、脱毛、倦怠感、吐き気、下痢など、さまざまな症状が現れたのです。こうした経験を通じて、彼女は患者たちの苦しみをこれまで以上に深く理解できるようになったといいます。

数ある副作用の中でも、彼女にとって最もつらかったのは脱毛でした。医師として、これまで多くの患者に抗がん剤を処方してきましたが、中には「髪が抜けるのが怖い」と治療を拒む人もいました。当時の彼女は、「脱毛は命に関わる問題ではないのだから、それほど気にすることではない」と考えていました。

しかし、実際に自分の髪が抜け落ちていくのを目の当たりにしたとき、その思いは一変しました。髪が抜けるのは、まるで自分の一部が失われていくような感覚で、何もできない無力感に襲われました。その恐怖に、彼女は思わず動揺してしまったといいます。

闘病中、彼女は父と「人にとって本当に大切なことは何か」について深く話し合いました。医師として患者を支えることは素晴らしいことですが、それだけが「人としての価値」を決めるわけではない、と父は語りました。
「誰かの力になれるなら、それは素晴らしいことだ。でも、もし今は誰かを支える余裕がないのなら、まずは自分自身を大切にしなさい。そして、安全で健康に、幸せに生きることを何よりも大事にするんだ」
父の言葉は、彼女の心に大きな安らぎを与えました。

治療を続ける中で、彼女の心には「なぜ私が？」という疑問が何度も浮かびました。しかし、今では、乳がんを経験したことには意味があったのではないかと考えるようになったといいます。それは、自分の中にあった「完璧でなければならない」という思い込みを手放すためだったのかもしれない、と。

そして今、彼女はこう信じています――「不完全さを受け入れることこそが、新しい人生を始める鍵なのだ」と。再発を防ぐためにも、これからはもっと自分自身を大切にして生きていこうと決意しています。

乳がんの分類が重要な理由

ウェイ医師によると、最も一般的な乳がんは浸潤性乳管がんで、全体の約90%を占めます。次に多いのが小葉がんで、これは全体の5〜10%ほどを占めます。

乳がんはステージ（病期）によって4つの段階に分類されます。どのステージに属するかを判断するには、複雑な臨床検査や補助的な評価が必要です。

ウェイ医師は、乳がん治療は非常に複雑であるため、ステージの判定が重要だと強調します。ステージごとに治療法が異なるからです。例えばステージ0 の場合、手術と軽い薬物治療だけで十分なこともあります。しかし、ステージ4 になると治療法ははるかに複雑になります。

がんのステージを判定した後は、乳がんの特徴を詳しく分析する必要があります。例えば、ステージ1 と診断された場合でも、そのがんが悪性かどうかを見極めることが大切です。そのため、医師は乳がん組織を詳しく調べ、がんの性質を判断します。

具体的には、乳がん患者の約3分の2 にエストロゲン受容体（ER）やプロゲステロン受容体（PR）が存在します。こうした受容体の有無を知ることで、ホルモン療法など、より効果的な治療法を選択できるのです。

また、 HER2 というタンパク質が確認された場合、その乳がんは進行が速い可能性があります。しかし、その一方で HER2に特化した標的治療が高い効果を発揮することが分かっています。

ウェイ医師は、一般的にステージ4に進行していなければ、生存率は高いと述べています。

乳がんはすぐに切除しなくてもよい場合がある

一般的に、「がんが見つかったら、すぐに手術で取り除くべき」と考えられています。しかし、必ずしもそれが最適とは限らないケースもあります。

例えば、トリプルネガティブ乳がん（TNBC）や腫瘍の大きさが2cm以上の場合、先に化学療法を行うことで生存率が大幅に向上することが臨床的に証明されています。

また、小葉がんが局所的に大きく広がっている場合、すぐに切除すると手術が困難になり、術後の乳房の形を整えるのも難しくなります。そのため、手術前に標的治療を行い、がんを小さくしてから手術をする方法が推奨されます。これにより、術後の見た目の改善や生存率の向上が期待できます。

ウェイ医師は、「手術のタイミングや、それまでにどの治療を行うべきかは、非常に複雑な判断が必要である」と強調します。そのため、焦ってすぐに手術を決めるのではなく、複数の医師の意見を聞いた上で慎重に判断することを勧めています。

乳がんの発症率と予防について

乳がんは、皮膚がんを除くと、アメリカの女性に最も多く発症するがんであり、死亡率は肺がんに次いで2番目に高いとされています。統計によると、アメリカの女性の約13%（8人に1人）が生涯のうちに乳がんを発症するというデータがあります。

ウェイ医師によると、近年若い世代にも乳がんが増えているといいます。その要因として肥満や初潮年齢の低下などが関係していると考えられています。

しかし、彼女は乳がんは必ずしも命に関わる病気ではないことを強調します。発症率は高いものの、生存率も非常に高いのが特徴です。特に早期発見できれば、治癒率は最大99%にも達することが分かっています。そのためには医師の指示に従い、定期的に乳がん検診を受けることが重要だと述べています。早期発見が早期治療につながり、それが完治の可能性を高めるというのです。

また、ウェイ医師はがんを予防するには、まず発がんの原因を理解することが大切だと指摘します。発がんリスクは、変えられない要因と変えられる要因に分けられます。

1. 変えられない要因

乳がん患者の 5〜10% は、生まれつき BRCA1やBRCA2などの遺伝子変異を持っており、そのために乳がんを発症しやすい体質であるとされています。これらの遺伝子変異がある場合、乳がんの発症リスクは60%以上にもなるといわれています。

ウェイ医師によると、乳がん患者や、乳がんの家族歴がある人の中には、自分の遺伝子を詳しく調べる人が増えているそうです。もし遺伝的に乳がんのリスクが高いと分かった場合、一般の人とは異なるタイミングで乳がん検診を受ける必要があるといいます。

また、こうした高リスクの女性の中には、予防的に乳房を切除し、その後、乳房再建手術を受ける選択をする人もいます。

2. 変えられる要因

ウェイ医師によると、日々の生活習慣を見直すことで、乳がんのリスクを低減できるといいます。具体的には、次のようなポイントが重要です。

精神的な健康は、体の健康にも大きく影響します。積極的にリラックスする時間を作り、ポジティブな気持ちを保つことが大切です。
加工食品、タバコ、アルコールに含まれる有害物質を避け、できるだけ自然な食材を使った食事を意識しましょう。また、化粧品やスキンケア製品に含まれる内分泌攪乱化学物質（ホルモンバランスに影響を与える成分）にも注意することが重要です。
適度な運動を習慣にし、毎日決まった時間に就寝することで、ホルモンバランスを整え、免疫力を維持することができます。
乳がんは早期発見が何よりも重要です。年齢やリスクに応じた適切な検診を受けるようにしましょう。