【佛家物語】お釈迦様とその家族(3)シッダールタの出発
夜中に家を出る
「どんなに名声や財産を得ても、老病死や苦しみからは抜け出すことはできない。どんなに良い世の中になっても、最愛の人を永遠に守り続けることはできない」。それを悟ったゴータマ・シッダールタ王子は、修行することを決意しました。その決意は、この世のいかなるものも阻止することのできない固いものでした。
紀元前595年2月8日の月夜、王子は静かに起き上がり、家を出る支度をしました。
彼はまず妻のヤソーダラーの寝室に来て、彼女と息子の寝顔を見つめ、静かに別れを告げました。
妻の寝室を出ると、周囲で寝ている宮人たちの姿が王子の目に入りました。あるものは髪が散乱しており、あるものは化粧が崩れていて、あるものは寝言を言い、ある者はよだれを垂らし、ある者はいびきをかいていました。
そこには、いつもの歌と踊りをする時の美しさは消え失せていました。王子は「この世の多くのものは幻想であり、非現実である」と嘆息しました。
「私はこの全てから解脱しなければならない」
この時、宮殿全体がまるで燃えているような気がして、王子はすぐにでもここを出なければと思いました。
王子は毅然として白馬に乗り、御者の車匿(チャンナ)は、馬の尾を必死に引っ張って王子を止めようとしましたが、王子は勇んで馬を躍らせ、車匿を連れて北の門の城壁を飛び越え、宮殿の外に出ました。
その時大地が揺れ、天の神々が道を導いて、脱出を助けました。正に「佛性がひとたび現われると、十方世界を震わす」という言葉のようでした。
豪華な宮殿を遠く離れて、夜明けとともに王子は都から100里離れた山林に着きました。王子は髪から真珠を取り出すと父に、体から宝石を取り出し叔母に、残りの衣服は妻のヤソーダラーに渡すように車匿に言いつけました。伝え終わると王子は車匿に宮殿に戻るよう命じました。
そして世俗との完全な決別を表すために王子は剣を抜いて自らの髪を切り落とし「生死を断ち切るまで、宮中に戻らない。悟りを開くまで、父のもとに帰らない。恩と愛情が尽きてなくなるまで、叔母と妻に会わない」と誓いました。
車匿は泣きながら、「王子様は尊貴で、宮中で良い生活をされてきました。しかし、今ここはいたるところにいばらが生えており、獣も多い山林です。王子はこれらの危険や苦しみに、どうやって耐えることができるのでしょうか」と言いました。
王子は「宮中では、父が私を形のある獣やいばらから守ってくれた。しかし目に見えない苦しみや悲しみからは救ってもらえない。今、私は老いと病と死と苦しみの束縛から解放され、真の永遠の安楽を手に入れようとしているのだ」と答えました。この言葉を聞き、王子の意志は曲げられないと知った車匿は、指示に従って宮中に戻るしかありませんでした。
車匿は王子から渡された宝飾品を持ち帰り、王子が剃髪して出家したことを報告しました。このことは皆にとってはまるで空が崩れ落ちてくるかのような出来事でした。浄飯王はこの上なく悲しみ、妻のヤソーダラーもとても悲しんで、なぜ王子があんなに楽しくて幸せな生活を捨てて、何も言わずに出家したのか理解できませんでした。
(続く)
(翻訳・微宇)