ドイツ海軍のフリゲート艦「バイエルン」(Photo credit should read MICHAEL KAPPELER/AFP via Getty Images)

独軍艦がアジアに向け出港 上海に寄港予定も「大局的には欧州の本気度示す」=専門家

ドイツは8月2日、約20年ぶりに軍艦を南シナ海に派遣する。インド太平洋地域での軍事的プレゼンスを拡大することで、価値観を共にする英米や日本、オーストラリアなどと協調を図る。いっぽう、当該艦艇は中国・上海への寄港も予定している。一見矛盾するような動きについて専門家は、自由主義国との連携と中国経済への依存という点で、ドイツによるアジアの関与は調整段階にあるとみている。

ドイツ海軍のフリゲート艦バイエルン」は、230人の兵士を乗せて、ドイツ北西部のウィルヘルムスハーフェンの海軍基地を出港し、6か月間の航行を行う。同艦は速射砲1基と機関砲を2基、そして対艦・対空ミサイルを備える。

航路は、地中海を通過してインド洋、南シナ海、太平洋に出る。途中、日本やシンガポール、オーストラリア、米国などとの共同訓練を行う。さらに、ASEANとはEU戦略的パートナーシップの協議や、日本およびオーストラリアとの安全保障政策の協議を行う予定だ。

この軍艦派遣によるインド太平洋地域の安全保障への関与について、アネグレット・クランプ=カレンバウアー国防相は、名指しは避けたものの、安定性を脅かす中国共産党の軍事拡張を念頭に置いている。「地域の航路はもはやオープンで安全なものではなくなっている。領土主張は、力を背景にした正義が規定になっている」 とカレンバウアー氏は述べた。

ドイツは2020年9月、同地域の秩序維持を戦略的な政策目標にした「インド太平洋ガイドライン」を発表した。ドイツ政府は中国について、安全保障の分野では潜在的な敵であり、気候変動対策など他分野では協力相手であるとみている。

在日独大使による今年1月の講演によれば、このガイドラインの策定には、中国経済への偏重に対する危機感があったとされる。中国は、ドイツ最大の貿易相手国で、全貿易額の約50%を占める。政治、経済、安全保障のバランスの観点から、ドイツはインド太平洋地域に多角的なパートナーを模索している。

ドイツ軍艦、上海寄港の予定 この矛盾はなぜ

いっぽう、ドイツのフリゲート艦の寄港先には、中国が含まれている。米国や英国、EUによるインド太平洋地域関与のコンセプトとは矛盾する動きを取るのはなぜか。

海上自衛隊幹部学校でドイツ海軍など欧州の海軍の歴史や戦略を研究する本名龍児1等海佐によれば、メルケル政権内は、インド太平洋に死活的な国益があると認めつつも、中国との経済的な相互関係も継続する方針が併存している状態だという。

ガイドラインが発表された当初は、「ドイツ国内も一枚岩になり中国に距離を置くものと見られた」が、「今春あたりから、ドイツ国内世論のトーンが変わってきたのを感じられた」と、本名氏は大紀元の取材に答えた。これは、経済面の中国依存と、コロナ後の国内経済回復を重視していることによるという。

さらに、現在のドイツ政権は複数の政党からなる連立政権であることも軍艦の訪中に関連しているとみている。「フリゲートの寄港先を決定する過程では、ドイツ国内報道でも、省庁間での意見の対立があったとされる」「EUにおける中心的役割としての立場や米国との関係もあり、難しい立場にドイツ政府も立たされている」と続けた。

いっぽう、上海寄港は確定してはいない模様だ。カレンバウアー国防相はフリゲート艦出港日の2日、中国側から上海寄港についてまだ回答がないとしている。

豪国立大学の国家安全保障カレッジ校長ローリー・メドカフ氏は豪メディア「WAトゥディ」の取材のなかで、ドイツのフリゲート艦の訪問は「価値あるシグナル」であると表現した。同時に、ドイツは中国との対立を避けるため、英や仏より慎重だとみている。

しかしながら、大局を見れば、クイーンエリザベス空母打撃群のアジア来航をはじめとする欧州の姿勢から「主要国がインド太平洋地域の重要性に気づき始めていることが分かる」として、同地域の関与へと軸足を移しているとの認識を示した。

日本もかねてより「自由で開かれたインド太平洋」のビジョンを掲げてきた。そして国際的な協力をドイツにも呼びかけ、軍艦の派遣を求めていた。2020年12月、岸防衛相はカレンバウアー国防相とのオンライン会談で、合同演習の実現に期待感を示していた。

ドイツ海軍のフリゲート艦は、国連による対北朝鮮制裁の強化としての海上監視任務、NATOの地中海での任務「シーガーディアン」、アフリカの角地域におけるEUの任務「アタランタ」にそれぞれ参加し、2022年2月にヴィルヘルムスハーフェンに戻る予定だ。

(佐渡道世)

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