台湾、日本からのワクチン提供を歓迎 中国の申し出に「下心」と警戒
政府はこのほど、台湾に対して、中共ウイルス(新型コロナウイルス)のワクチンを提供すると発表した。これに対して、中国外務省は内政干渉だとして日本側を非難した。台湾は、日本からのワクチン提供を歓迎する一方、ワクチン提供を申し出た中国当局について、影響力拡大を狙う下心があると警戒している。
茂木敏充外相は5月28日、国内の接種対象を上回る分のワクチンについて、台湾を含むほかの国・地域に提供することを検討していると明らかにした。外相は記者会見で、「台湾には東日本大震災の際、いち早く義援金を募り、様々な支援をしていただいた」と述べた。外相は、7月に台湾がワクチン生産体制を整える前、台湾のワクチン不足が続くのを予想し、ワクチン提供を検討したいと示した。
台湾では、6月1日時点の累計感染者数は8842人で、死亡者137人。過去3週間において、台湾の感染者数は約7000人増えた。感染が急拡大している一方で、ワクチンの接種率は1%に達していないのが今の現状だ。このため、市民から不満が噴出し、政府批判が高まっている。
中国当局は5月下旬、台湾にワクチンを提供する意向を表明した。
中国外務省の趙立堅報道官は同月28日の記者会見で、日本政府による台湾へのワクチン提供について、「台湾が中国本土からワクチンを取得する道は開かれている。台湾当局がワクチンを通じて、『独立を謀る』ことは必ず失敗するだろう」と述べた。
また、31日の外務省の会見では、汪文斌副報道局長は、台湾の一部の地方政府や各団体が中国製ワクチンを導入するよう台湾政府に呼び掛けていることを挙げ、台湾政府が中国のワクチンを拒むことは「台湾同胞の命を無視することに等しい」「中国本土の善意も無視している」などと批判した。
さらに汪氏は、批判の矛先を日本に向けた。「感染対策の名を借りて、政治ショーを行い、また中国の内政に干渉することに断固として反対する」「日本は自国のワクチンを十分に確保できていないのに、台湾にワクチンを提供することを検討している。これは台湾の人々やメディアを含めて、多くの人々に疑問視された」。汪氏は、ワクチンは「政治的な利益を図るための道具ではない」とした。
台湾政府の対中政策を担う大陸委員会は1日、米ラジオ・フリー・アジア(RFA)の取材に対して、中国当局こそが台湾政府のワクチン調達を妨害し、政治的な圧力をかけていると糾弾した。
大陸委員会の声明は「中国当局は国際社会において台湾を孤立化し続け、台湾の世界保健機関(WHO)総会参加を阻み、ワクチンをめぐっても政治的圧力をかけて、第3国によるワクチン支援を妨害している。台湾の人々は、このような不道徳な行為を繰り返す中国当局を再認識できた」とした。
蔡英文総統は26日、台湾政府がドイツ製薬会社、ビオンテック(BNT)との間でワクチンの調達契約を締結する直前に中国側から妨害を受け、契約まで至らなかったと明かした。
いっぽう、民進党の羅致政・立法委員(国会議員に相当)は、中国当局こそ政治ショーを行っていると反論した。
「中国当局は、台湾の独BNT社からのワクチン購入を妨害しながら、他国のワクチン提供を非難している。中国当局だけが、台湾にワクチンを提供する資格があると全世界にアピールしている。このやり方から、中国当局は台湾の人々の健康と命に全く関心がないことを反映した。中国当局にとって政治がすべてだ」
羅氏は、台湾の与野党は日本のワクチン支援を歓迎しているとRFAに語った。
国民党の曽銘宗・立法委員も日本のワクチン提供を歓迎した。曽氏は、「日本のワクチンに関しても、中国のワクチンに関してもあまり論争する必要はないと思う。感染防止という初心に戻ることが正しいことだ」と述べた。
新党の郁慕明・主席は、中国製ワクチンを接種したい市民は中国大陸に行き、接種すればよいと提案。「中華民国は自由・民主主義の社会であるため、市民が中国本土、欧州、あるいは米国でワクチンを接種することは個人の自由だ」
中華民国基層医療協会の林応然・理事長は、中国当局のワクチン提供に「下心がある」と多くの台湾市民が警戒していると指摘した。林氏は、中国当局の「下心」は、ワクチンを提供する代わりに、台湾が中国の一部だと台湾の人々に認めさせることにあるとした。
「でも、他の国がワクチンを提供しても、このような要求をしていない」
林氏によると、台湾メディアは過去、WHO総会参加について、WHOの中国代表に取材し、「台湾の2千万人の声を聴いてください」と訴えた。中国代表は「誰があなたたちのことを気にするんだ」と返事した。
林氏は、「この返事に、台湾の人々は本当に傷づいた。中国当局の大陸市民への扱いもひどい。中国大陸が米国のような民主主義国家であれば、すでに台湾と大陸は統一していただろう」と述べた。
産経新聞の矢板明夫・台北支局長は、「日本政府のワクチン提供によって、台湾で影響力を拡大し、台湾社会を支配したいという中国当局の狙いが砕かれるため、中国当局が強く反発した」と分析。
矢板氏は、中国当局が過去、日本政府に不満があったとしても、表で痛烈に批判することはなく、水面下で交渉し、または圧力をかけていたとした。同氏は、中国外務省が今回、日本への不満を直に表したことは「意外だった」と述べた。
(翻訳編集・張哲)