≪医山夜話≫ (7)

一つの夢で治った難治の病

ローリと母親は、とても微妙な関係でした。ローリが生まれてから3カ月後、父親は愛人の家に行ったまま帰らなくなったため、母親はローリを連れてカリフォルニア州から引っ越しました。それからは、数年ごとに住む場所を変え、最後に今の町に定住することになりました。ローリは転校の繰り返しでジプシーのような生活を送り、長くつき合う友達を作れなかったため、母親に不満を抱いていました。

 不満を晴らすために、ローリは母親の言ったことすべてに反抗的な態度を取りました。母と教会に行った時、ローリは心の中で、「神さま、本当に私を愛していらっしゃるなら、どうして私をこのような人の娘にしたのでしょうか」と問いかけました。親子で一日も離れたことがないのに、心は遠く離れています。

 母親との冷戦は、ローリの18歳の誕生日に終止符を打ちました。ローリは鳥かごから逃げ出す小鳥のように、荷物を持って家を出ていきました。その後、すぐに結婚しました。しかし、家を出て6カ月も経たないうちに、母親はガンで亡くなったのです。

 母親の死を知った時、母が自分のためにしてくれたさまざまな事を思い出して、ローリは深く後悔しました。雨の中、ローリを抱いて病院に駆け込み、一晩中看病してくれたこと。クリスマスツリーの下に、ローリのために買って来たプレゼントがいっぱい置いてあったけれど、自分のプレゼントは一つもなかったこと。誕生日にはケーキを作って、ローリの僅かな友達を誘って、パーティを開いてくれたこと。ローリが野球、サッカーをするときに、真夏の盛りに観戦に来てくれたこと。10数年間、毎日学校の送り迎えをしてくれたこと・・・。

 後悔のあまり、ローリは病気になって11年間も患っていました。私の診療所に来た時、まだ30歳前半にかかわらず、彼女の髪の半分は白くなり、うつ病にかかっていました。全身に筋肉痛もあり、更年期のすべての症状が現れていました。まだ年の若いローリに現れた更年期症候群に疑問を感じた私は、ローリに家族のことを尋ねました。通常、女性の月経の状況は、母親と関係があるからです。母親の話を始めた瞬間、ローリは涙が止まらなくなりました。

 母親と仲が悪かったことや、友達の前でわざと母親に恥をかかせたことなど、ローリは全部話しました。「今は、母に謝ることもできない。母を喜ばせることも、母に恩返しすることも永遠にできなくなった」と、ローリは悔やみました。

 鍼灸治療を施しても、薬を処方しても、ローリの悔やみと心の中のシコリを解すことができないことは私に分かっていました。しかし、思いも寄らないことが起こりました。最終的にローリの病状を好転させたのは、ある一つの夢だったのです。

 ある日、ローリは母親の夢を見て、ローリは泣きながら彼女に許しを請い、自分の後悔と悲しみを訴えました。意外にも、母は厳しい口調でローリを責めました。「泣くのを止めなさい。あなたを産んでから、私は一日も楽に暮らしたことがありません。あなたのせいで、私は若くして世を去りました。すべてあなたが悪かったのよ。私はあの世でずっとあなたに復讐しようとしています。私の執念であなたは今のように病弱になったのよ。前世は、私はあなたを産んだ母ですが、今、私はあなたを恨む敵であることを忘れないで」。

ローリはとても驚いて、また子供のころの哀れな自分を思い出しました。母親を思って自分は病気になったのに、かえって「すべてあなたのせいだ」と言われるのは筋違いだ、と怒りながら目覚めました。ローリはこの夢をノートに記録しました。夢の中で、また母に怒ってしまった自分をとても後悔しましたが、どうしたらいいのかも分かりません。

 ローリは診療所を訪ね、夢のことを話しました。私は、「人間の怒りは病気を起すこともあるし、病気を治すこともできます。長年、あなたはお母さんに対する申し訳ない気持ちから抜け出すことが出来ず、病気に苦しんできました。今、怒ったことによって心のシコリが解けたのはお母さんの苦心だと思います。本当に『母親ほど我が子を分かる人はいない』と言われているように、お母さんはずっとあなたを深く愛し、気にかけています。あの世に行った後もね。あなたがこのように苦しんでいるのを見て、お母さんは夢に出て来てわざとあなたを怒らせ、これであなたを11年来の悔やみと苦しみから解放させようとしています。お母さんに感謝すべきですよ」とローリに言いました。

 私の話をローリがどれぐらい理解できたのかは分かりませんが、いずれにせよ、彼女の気持ちはかなり穏やかになってきました。それからローリは数回、私の診療所に通った後、完全に回復しました。

 人間の縁は、現世だけで結ばれたものではありません。死んだ後も、自分が作った借りは自分で返さなければなりません。では、ローリと母親との因縁は、一体誰が誰に借りを作ったのでしょうか?答えは、読者の皆さんにお任せします。
 

(翻訳編集・陳櫻華)