≪医山夜話≫ (50)

睡眠は万病を治療できる神薬

中国では昔から「仙人になるより、よく眠れる秘法を探したい」という諺があります。睡眠がいかに大切かをもの語っています。

 不眠症にはさまざまな病状があります。「寝つきが悪い」「朝早く目が覚めやすい」「夜中に何度も目が覚める」「寝ていても音に敏感」「眠りが浅く、睡眠時間の割に熟睡感がない」など……。最も哀れなのは、布団に入ってウトウトし始めた時に、とつぜん用事を思い出し、布団を飛び出して用事を済ませるなどゆっくりと寝付くことができない人たちです。

 私はある不眠症の患者を治療したことがあります。長年経った今でも、時たま思い出しては、クスッと笑いたくなります。

 患者のAさんは、仕事の関係で単身赴任していました。奥さんが来るたびに、彼は必ず頭痛になり、診療所を訪ねます。「夜は家の中が昼間よりも騒がしくて、昼夜が逆転しているようです。なんとか、先生に助けてほしい」と私に訴えます。原因は、奥様が一晩中寝ずに、皿洗いと洗濯をしながら掃除機をかけるからでした。このため、彼は心臓病にもなりかけていたのです。

 「妻は多忙な人で、寝ることは時間の無駄だと思っているようで、なかなか寝ないのです。彼女は大学院生で、文章や論文の大半は深夜に書いています。しかし、昼間はもうろうとして、疲れきったら寝ていますが、体は寝ているが魂が休んでいない状態です」とAさんは心配しています。

 Aさんは妻を診療所に連れてきました。私は彼女を横たわらせ、長さ1寸の鍼を彼女の首の生え際に刺すと、数分後に彼女は寝つきました。目が覚めたのは2時間後のことです。それから、彼女は夜間に眠るようになりました。しかし1ヶ月を過ぎると、彼女は「寝る時間が多すぎる」と、また私を訪ねてきました。「先生は私を眠らせることができました。それなら、今度は私を眠り過ぎないように治療できるでしょう」と。

 Aさんは嘆いて奥様に言いました。「お前の頭にはスイッチがあって、寝るか寝ないか、李先生が自由にコントロールできるとでも思っているのか?」

 私は彼女を横たわらせて、前回のツボに鍼を入れ、今度は半分の深さまで刺しました。彼女はまた寝つきましたが、間もなく目が覚めました。「人間の体は血と肉で出来た体で、睡眠はとても大事です。寝ることを通じて気・脾・胃・骨などを養うことができます。病気に罹っていなくても、夜更しをして夜に寝ないと、体の精気は衰えて目の縁が落ちてきます。病気の症状が現れていなくても、病は体内に潜むようになります。睡眠は薬ではありませんが、万病を治療でき、命を救うことさえできます。どんな病にも効く神薬です」と、彼女に教えました。

 彼女は分かったような、分からないような顔つきでした。しかし、その日の治療を受けてから、再び診療所に来たことがありません。Aさんの頭痛もあれから治ったようです。

(翻訳編集・陳櫻華)※≪医山夜話≫ (50)より