急性疾患も慢性疾患も、その原因として体質が絡んでいるケースが多々あります。例えば、花粉症の直接の原因は花粉ですが、花粉が飛散しているからといって必ずしも発症するわけではありません。花粉症の発症は、花粉という直接的な原因以外にも体質が大きく関係しています。
局部の症状や表面の原因ばかりを気にして治療をすれば、症状は一時改善したとしても、再び繰り返すことがあります。実際、花粉症を何度も発症する人は、花粉の吸入を避ける以外に、根本的な体質改善に重点を置くことが必要です。
体質改善を試みるなら、まずは現在の身体の状態を知らなければなりません。身体の状態を判断するには、「望、問、聞、切」という診察法がよく使われます。目で見る、口で問う、耳で聴く、鼻で嗅ぐ、手で触るなどの手段で患者さんから病気に関する情報を収集し、更に伝統医学の理論でそれを分析して判断します。
花粉症は鼻や目、耳、咽喉の辺りに症状が現れますが、体質から診ると、肺が冷えているパターンもあれば、肝が乾燥(血虚)しているパターン、腎気不足のパターン、脾胃痰湿のパターンなど、様々なパターンがあります。肺に問題があれば鼻の症状が強く、肝に問題があれば目の症状が強く、腎に問題があれば耳の症状が強く、脾胃痰湿の問題であれば痰や分泌物が多いということが、伝統医学の理論から判断できます。
そのため、同じ花粉症であっても患者の体質が違えば、治療に使うツボや施術方法も異なります。治療を通して体質を改善できれば、花粉が飛散しても花粉症にはなりません。
もちろん、体質を改善するには鍼灸治療だけでは不十分です。病的な体質をつくる原因を見つけ、それを除去しなければなりません。往々にしてその原因は、生活習慣や精神状態によるものです。例えば花粉症が発症しやすい体質には、冷たいものを過度に摂取すること、睡眠不足、精神的なストレスなどが強く関与しています。これらの要素を取り除けば、より早く体質を改善することができます。
一例を挙げてみましょう。60代の女性で、数年前からふらつきと軽いめまいが続いていました。病院で検査しても異常が見つからず、耳鼻科で長く治療を受けていましたが、症状はなかなか改善されません。親の看病や介護をしているから、きっとそれによる疲労やストレスのせいだろうと、医者も患者さん本人も思っていました。噂を聞いて鍼灸院に来られた時、その女性の身体の状態は「脾胃虚弱、痰飲停滞」でした。消化器の機能が弱くて水分代謝がうまくできず、体内に水毒が溜まっていたのです。患者さんには水分の摂り方を指導し、週一回の頻度で鍼灸治療を施しました。その後、症状は次第に軽減し、3カ月後には完全に治まりました。
鍼灸院では、このように原因がはっきり分からないまま長期にわたって症状が続く患者さんに対して、体質改善を目指して治療を施した結果、改善したケースが多くあります。もし原因不明の症状で悩んでいるなら、一度鍼灸院を訪れることをお勧めします。
(漢方医師・甄立学)
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