中国当局は8月14日、デジタル人民元の試験範囲を北京市や長江デルタ、広東省深セン市、香港などの大都市圏に拡大すると発表した(Jack Taylor/Getty Images)

デジタル人民元導入、米中金融デカップリングへの備え

中国当局は8月14日、北京市や天津市、河北省、上海を含む長江デルタ地域、広東省深セン市、香港、マカオなどの大都市圏を中心に、デジタル人民元の試験範囲を拡大すると発表した。専門家は、中国当局が米中対立の激化で、ドル決済システムから除外されることを念頭に、デジタル人民元の導入を急いでいるとの見解を示した。

中国当局のシンクタンク、中国社会科学院の余永定氏は13日、ロイター通信に対し、国際銀行間通信協会(SWIFT)のドル決済システムから排除されるなど、米中の完全なデカップリング(切り離し)は不可能ではないと語り、「それに備えなければならない」とした。同氏は、「大半の中国企業は、米ドルの使用が制限され、SWIFTや米国クリアリングハウス銀行間支払システム(CHIPS)から排除されるなど、さまざまなサービスを受けられなくなるという制裁措置に耐えられない」と述べた。

余氏は、中国人民銀行(中央銀行)貨幣政策委員会の元委員だった。

一方、中国国家外為管理局国際収支司の元司長で、中銀証券チーフエコノミストである管涛氏はロイター通信に対して、「われわれは心の準備をしなければならない。米国が中国をドル決算システムから追い出す可能性がある」と話した。余氏らの中国人金融学専門家は、人民元国際化を一段と加速する必要があるとした。

中国メディアによると、上海交通大学の胡捷教授はこのほど、人民元国際化の推進具合を検証する指標は2つあるとした。1つは国際貿易総取引量の中の人民元による貿易取引量だ。もう1つは各国の外貨準備の通貨別構成に占める人民元の割合だ。現在それぞれの割合は2.2%と2%だ。

経済学者の呉嘉隆氏は大紀元の取材に応じ、人民元を使った国際貿易取引量が非常に少ないとの見方を示した。現状では、決済に使われている通貨の中で、人民元は、ドル、ユーロ、日本円、英ポンド、スイスフランなどに次いでいる。過去十数年来、人民元国際化の大きな進展はない。同氏は、「この状況下で中国当局は、デジタル人民元を通してドル決済システムを迂回すると吹聴しているが、実際にはできないことだ」と指摘した。

呉氏は「通貨機能の面では、デジタル人民元を発行しても、他の国と取引できない可能性がある。最終的にイラン、北朝鮮、ベネズエラなど一部の国としか取引できない」とした。

中国当局は、ブロックチェーン技術(分散型台帳技術)に基づくデジタル人民元の導入で、ドル決済システムからの脱却を図っている。一部では、中国IT大手のテンセント傘下の電子決済サービス、ウィーチャットペイ(WeChat Pay)のように、中国人観光客や海外にいる中国人住民が、デジタル人民元を利用することを期待している。

トランプ米大統領は8月上旬に、ウィーチャットの使用を禁止する大統領令に署名した。呉嘉隆氏は、「ウィーチャットペイが米金融当局の監督管理を受けておらず、米国への納税を回避していたことが、米政府がウィーチャットの使用を禁止した主因であろう」とした。同氏によると、今後、同じく中国系電子マネーであるアリペイも米国で使用禁止される可能性が高く、「デジタル人民元は米国でさらに使いにくくなる」

「スマホ用健康管理アプリ『健康碼』のように、デジタル人民元の最大の役割は、中国国内における国民の監視だ。反体制活動家らの資産凍結に使われるに違いない」

呉嘉隆氏は、中国共産党政権の下で、デジタル通貨の導入は高い金融リスクを招くと警告した。

「中国当局は今、デジタル人民元の準備資産、発行と監督管理のメカニズムについて説明すべきだ。これらの課題をしっかり解決しなければ、デジタル通貨の導入は、行き詰まり状態の中国当局にとって、政権崩壊を加速するきっかけになる」

(記者・林岑心、翻訳編集・張哲)

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