遠い昔、大和国に転乗という僧侶がいました。彼は気が荒くて、常に怒っていました。転乗は小さい頃から仏経を読むのが好きで、毎日仏経を読むのを楽しんでいました。
仏経を暗唱しようと思い、いつも読んでいたら6巻まで覚えることができましたが、なぜか最後の7巻と8巻はどうしても覚えられません。
「残りの7巻と8巻も暗唱して、仏経を心の中に刻むべきのじゃ」と思い、さらに精を出しましたが、何年経っても覚えられません。
悩みに悩んだあげく、転乗は菩薩の参拝に行きました。毎日3千回礼拝し、何とか残りの仏経を覚えられるよう祈りました。90日が経った日の夜、転乗は夢の中で龍の冠をかぶった仙人を見ました。夜叉の顔をしていて、瓔珞の飾り物をつけ、手には金剛杵を持ち、足下には蓮花座を踏んでいました。仙人はこう話しました。
「お前の前世は毒蛇だった。体型が大きく、長さは2丈(約7メートル)もあり、播磨国赤穂郡の野磨駅家(やまのうまや)に住んでいた。ある日、そこへ一人の聖人がやってきて一晩泊まることになった。お前は何日も食べ物を食べておらず、その聖人を食べようと狙っていた。聖人はそれに気づき、手を洗い嗽(うがい)して誦経し始めた。お前はそれを聞いて気持ちが和らぎ、聖人を食べようとした考えをやめ、目を閉じて一心に仏経を聞き始めた。ところが、6巻まで読んだところで、夜が明けたので、聖人はそこを出てしまった」
「お前は仏法を聞いて、人を害することをやめたので今世は人の身体を得て僧侶となったが、7、8巻を聞いたことがないので、今もそれを暗唱できないでいるのだ。またお前の性格が乱暴で怒りやすいのも毒蛇だったころの習性じゃ。これからお前はもっと精進をして悪習慣をなくすがよい。現世では求めるものが得られ、来世では生死の苦しみから離れることができようぞ」
ここまで聞いて転乗は夢から目を覚めました。前世と今世の因果を知り、ますます精進して仏法を修めるようになりました。
参考資料:虎関師錬 (著) 『元亨釈書』/景戒 (著)『日本国現報善悪霊異記』
(大紀元日本ウェブ編集部)
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