【子どもに聞かせたい昔話】石工と山の精霊

昔々、あるところに石工が暮らしていました。石については豊富な知識があり仕事ぶりが丁寧だったため商売はうまくいっていました。山の石切り場から石を切り出すのは骨の折れる仕事でしたが、人をうらやましく思ったり高望みしたりすることもなく、幸せに暮らしていました。

この山には精霊が住んでいて、ときどき人の前に姿を現しては魔法で願いをかなえてくれるという言い伝えがありました。そんな精霊などいるわけがないと思っていた石工の身に、次々と不思議なことが起こりました。

ある日、石工が金持ちの客を訪ねると、その家はまばゆいほどに美しいもので埋め尽くされていました。すると突然、石工は自分の生活をひどくみじめに思い、心の中でつぶやきました。「ああ、わしも金持ちだったら幸せだろうなあ!」

すると、どこからか声が聞こえました。「そなたの望みをかなえましょう。金持ちになれ!」

石工はまわりを見回しましたが、誰もいません。気のせいだと思い、その日は仕事を早く切り上げて家に帰りました。すると驚いたことに、ちっぽけな小屋が見事な家具を備えた大邸宅になっていました。石工は大喜びで、昔の生活のことなどすぐに忘れてしまいました。

夏になりました。太陽がジリジリと照りつけます。あまりに暑くて息もできないほどだったので、石工は一日中ずっと家にいることにしました。退屈して日よけのすきまから外をのぞいていると、お供を従えた立派な馬車が通りかかりました。金の日傘で強い日差しから守られている王子様を見て、石工は心の中で思いました。「ああ、わしも王子様だったら幸せだろうなあ!」

すると山の精霊は答えました。「そなたの望みをかなえましょう。王子様になれ!」

すると次の瞬間、石工は王子様になっていました。外に出かけるときには憧れの金の日傘が頭上にあり、欲しいものはなんでも手に入ります。しかし、石工の心は満たされず、まだ他に求めるものをさがしました。そして、日傘で守っても自分の顔は日焼けしてしまい、水をまいても強い日差しが植物を枯らしてしまうことに怒りを感じ、叫びました。「王子の権力も太陽の力にはおよばない。ああ、わしも太陽になりたいもんだ!」

すると山の精霊は答えました。「そなたの望みをかなえましょう。太陽になれ!」

すると、石工は太陽になりました。自信満々で四方八方に強い光を放ちます。草花を枯らし、王子であっても貧しい者であっても同様に日差しを照りつけました。しかし、間もなく自分の力に飽きてしまい、またもや石工の心に不満が頭をもたげてきました。そこに雲がやってきて太陽を覆い隠したので、石工は腹を立てて叫びました。「くそっ、雲にこんなみじめな思いをさせられるなんて。ああ、わしも雲になったら他を負かせるのになあ!」

すると山の精霊は答えました。「そなたの望みをかなえましょう。雲になれ!」

次の瞬間、石工は雲になって、空に浮かんでいました。自分が太陽の強い日差しをさえぎると植物が再び緑を吹きかえし花を咲かせたので、石工は喜びを感じました。しかしまだ満足はできず、来る日も来る日も雨を降らせ、川をあふれさせ、田畑を水浸しにし、村々を破壊しました。そんな中で、岩山だけはびくともしませんでした。石工は驚き、叫びました。「なんだと? 岩が一番強いというのか? わしも岩になれたらなあ!」

すると山の精霊は答えました。「そなたの望みをかなえましょう。岩になれ!」

石工は何にも動じない岩となりました。太陽の強い日差しも洪水もどうってことありません。「とうとうこの世で一番強くなれたぞ!」と石工は思いました。ところがある日、足元で奇妙な音がしました。見ると、人間が岩肌を削り出しています。恐怖でブルブル震えていると、大きな岩のかたまりが切り取られて地面にころげ落ちました。彼は激怒して叫びました。「なんてこった! あのちっぽけな人間が岩より強いというのか? ああ、人間に戻れたらなあ!」

すると山の精霊は答えました。「そなたの望みをかなえましょう。もう一度、人間になれ!」

そして石工は、汗だくになりながら仕事に精を出す日々に戻りました。硬いベッドや粗末な食事に不満を言うこともなく、毎日の生活に幸せを感じます。山の精霊の声を聞くことは、もう二度となかったということです。

(Ancient Tales of Wisdomより)
(翻訳編集・緒川)

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