フィリピン軍、過激派掃討は終盤 テロ勢力は動画で参戦呼びかけ
過激派組織に占領されたフィリピン南部の都市・マラウイを奪還するため、フィリピン軍は航空機や装甲車を含む重装備を投入している。5月からの戦闘で過激派戦闘員600人が死亡。組織の大半は一掃され、政府軍は優勢とみられている。いっぽう、組織は東南アジアのムスリムに対し、フィリピン軍と戦うよう呼びかける動画を公開したことから、東南アジアにおける勢力拡大が懸念されている。日本のシーレーンを通過する地域での過激派組織の動きには、警戒が必要だ。
マウーテ派の抵抗 少年兵を実戦に投入
過激派に忠誠を誓ったとされるマウーテ派は5月末、別の過激派組織「アブ・サヤフ」の支援のもと、マラウイ市を襲撃した。
顔をマスクで覆い、自動小銃やロケットランチャーで武装した戦闘員は、あっという間に同市を占領した。道路にはイスラム国の旗が立てられ、一部の住民は人質となった。政府軍による掃討作戦が始まると、マウーテ派戦闘員は市街地戦を繰り広げた。
市での戦闘が劣勢になると、過激派組織「マウーテ派」は少年に銃を持たせ、戦闘に参加させた。軍広報担当者アレヴァロ氏によると、マウーテ派は、後方支援を担当していた未成年にも武器を配布し、実戦投入した模様だ。
フィリピン紙「INQUIRER.net」は8月28日、子供が実戦部隊に参加しているとの事例を報じた。マニラ在住の女性が、フェイスブックに投稿されたマウーテ派少年兵の写真のなかに、誘拐された我が子によく似た男の子を見つけた。女性によると、息子は7年前に誘拐され、当時はまだ3歳だった。
この少年とは別に、フィリピン軍が7月に捕らえた少年兵は、7年前に武装組織に加入し軍事訓練を受け、現在は1カ月に1万5000ペソ(約3万円)ほど支給されていると話した。戦闘開始した当初、少年兵は後方支援活動や偵察等の強度の低い任務に従事していたが、戦況が悪化するにつれ、前線に駆り出されたと見られている。
アレヴァロ氏によると、残存する50~60人のマウーテ派戦闘員はすでに500平方メートルの市街地に押し込められ、その半数が未成年者だ。人質を取っているとの情報もあるため、軍は慎重な作戦を強いられている。
米紙「ワシントン・タイムズ」によると、フィリピン軍前線指揮官バウティスタ准将は報道陣に対しこの危機を終結させるのは時間の問題だと話した。
マラウイでの戦闘により、過激派戦闘員600人以上が死亡した。いっぽう、政府軍兵士や法執行機関職員でも145人の犠牲者が出たほか、民間人45人も死亡。46万人を超える避難民が発生した。日本政府は7月末、難民の食糧・衛生支援のため、200万ドル(約2億2000万円)の緊急無償資金協力を決めた。
過激派、東南アジア進出という脅威
イギリスの「ウィーク」誌によると、過激派組織のメディアが9月12日頃、フィリピン南部にいる戦闘員に対して士気を鼓舞する動画を公開。戦闘員と思われる男が、マレーシアやブルネイ、タイ、シンガポールそしてインドネシアのムスリムに対し、フィリピン南部に行き政府軍との戦闘に加わるよう指示した。現在フィリピン南部では「マウーテ派」、「バンサモロイスラム自由戦士(BIFF)」そして「アブ・サヤフ」という3つの過激派武装組織が展開している。
アメリカの情報機関職員はNBCニュースの取材に対し、過激派組織は「国際的な広がりであると認められたがっている。フィリピンは(国際的なテロ組織)参加の機会を提供した」と語った。
フィリピン人の9割は、キリスト教信者で、東南アジア諸国でも珍しい。しかし、南部にはムスリムも存在し、宗教的対立が過去数十年間続いてきた背景がある。中東で多くの領地を失ったイスラム国がフィリピン国内の対立を利用して、東南アジアに拠点を移転するのではないかと危惧されている。
急成長を遂げる東南アジア諸国は今や世界経済にとって欠かせない部分となり、日系企業も多く進出している。さらには日本の生命線とも言えるシーレーンが通過する地域であるため、情勢の不安定は経済にも好ましくない影響を与えかねない。日本は関係諸国との連携を強化し、継続的な情報収集が急務となる。
(文・文亮)