【大紀元日本11月16日】もしも突如、自分の目の前で人が倒れたらどうするか。まずは心臓マッサージや人工呼吸など、蘇生措置を施すはずである。相手が息を吹き返したら、ようやく他の症状にも手を付け始める。例えば、その人の持病や後遺症・合併症などである。
実は、漢方も同様だ。古来、こんな言い方がある。「急則治其標 緩則治其本」。つまり命の危機に直面したら、まず表面のものを治す。それが一旦落ち着いてから、根本の病気を治療し始める。
昔、赤痢にかかって高熱や咳・吐血に悩む患者がいた。へその周りには気の塊さえ出現した。しこりになるほど重症で、患者は耐え難い痛みに苦しんだ。実は、これこそが彼の命を脅かす、最も危険な要素だったのである。
どの医者も、彼にはお手上げだった。だがその時、ある漢方医は彼を診るとこんな行動をとる。まず、この気の塊を散らすために「気海(きかい)穴」を鍼灸し、そのあと赤痢や高熱・咳などの治療を始めた。すると、彼の「不治の病」は徐々に回復を見せ、一命を取り留めたのである。
だが、面白いのはここからだ。この漢方医は最後に、患者にこう告げる。「これからは食事の時、むやみに怒ってはならない」
なぜこんな助言を残したのか。この漢方医は、彼の病気の原因に気づいていたからである。つまり、彼の腹部に気の塊が出来たのは、彼が怒ったために肝が傷ついて出来たのだ。それが脾をも傷つけた結果、気の塊が生まれたのである。
「上工治未病、中工治已病」という言い方がある。優れた医者は、その人が病にかからないようにするが、平凡な医者はすでに出現した病を治す。彼がこれから、再びこの病気にかからないよう助言できた点は、評価に値する。
昨今では、予防医学が脚光を浴びている。だが、単に教科書通りの予防法を教えるだけでは足りない。人間は一旦、良くない癖や嗜好、考えが染み付いてしまうと、それを変えるのは至難の技だからである。喫煙や飲酒がその典型例であろう。
よって、それらを変えるには相手が心底納得できるような、正しくて分かりやすく、説得力のある言葉が必要だ。そしてその言葉には、相手の心を揺さぶるほどの力も帯びていなければならない。それはすなわち、医者が心から相手の健康と幸せを願う心だ。
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