【大紀元日本10月24日】東京は中央区、日本橋人形町の交差点近くに、創業227年になる刃物専門店「うぶけや」がある。昭和2年築造の木造三階建の年季の入った建物は、大型ビルが並ぶ人形町通りで、ひときわ目を引く。現在お店を継ぐのは8代目・矢崎豊(57)さん。江戸期から続く歴史と「研ぎ」の技術について伺った。
初めて裁ちバサミを生産・販売
うぶけやは、日本で初めて裁ちバサミを製造・販売した刃物店だ。洋服を着る人もちらほら現れ出した明治初期、5代目は早くから裁ちバサミの需要を感じ、腕の立つ入谷の刀鍛冶・吉田弥十郎(弥吉)に依頼した。
お店の入り口には、その弥吉作のハサミが飾られている。長さは約40センチ。日本で最初の裁ちバサミは、刀ぐらいの厚さがあって重そうだ。大小の和バサミや、刃幅12センチ程の蕎麦切り包丁、ほっそりと長い柳刃包丁。丹念に研がれた刃物は、みな静かに、ガラスケースの中に立てられている。
名職人が鋳造した刃物が並ぶガラスケース。下段左の2本の裁ちバサミは、弥吉作のもの(大紀元)
お店の裏にある仕事場を見せてもらった。「シュウー、シィー」― 使い続けて切れなくなった包丁を、直径75センチの回転砥石に当てて、元の鋭さに戻していく。初めの荒研ぎが肝心で、仕上がりの良し悪しはこの工程で決まる。
指の感触で材質を見る
職人でも、見た目だけで刃物の材質を見抜くのは難しいという。矢崎さんは、研いで出てきた「刃がえり」を指先で取って、材質を見極める。軽くおさえて「パラッパラッ」と適度に取れるのが良く鍛錬された刃で、悪い刃は「ぐにゃり」となる。その後、天然と人工を含め数種類の砥石を使い分け、刃先をハマグリのようにする。そうすることで物を切り分ける力が付くのだそうだ。
職人は刃返りで材質を見分ける(大紀元)
「女の子にはオススメしないよ」と冗談まじりに教えてくれた刃の鋭さを確認する方法は、刃を頭髪の流れに軽く当てるというもの。鋭い刃は、その重さだけで髪の毛に引っかかる。
「人に必要とされるものが世に残る」
24歳で本格的に店に入ってからも、稲荷町の下谷神社近くにあった研勝(とぎかつ)という刃物を研ぐ工房に20年間修行した。十数年前に研勝がなくなった時、東京の研ぎ工房をなくすまいと、うぶけやの裏に工房を設けた。
新しいビルが立ち並ぶ人形町通りで、ひときわ際立つ、うぶけやの店構え(大紀元)
今年、大学4年生の息子さんが9代目を継ぐ。「若旦那」と呼ばれていた自分がそうであったように、自然な環境で後継ぎが決まった。「人に必要とされるものが世に残る」と矢崎さんはいう。全国にいる愛用者のため、江戸以来の伝統を継承するため、矢崎さんは今日も刃物を研ぐ。
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