昔、景春という人が孟子に言った。「公孫衍、張儀こそが真の大丈夫(立派な男)とは言えませんか?二人が一旦怒り出しますと、各国諸侯はびくびくして落ち着かなくなります。彼らが毎日平穏に過ごしていれば、世の中の至るところが平穏となるでしょう。」公孫衍、張儀は共に魏国の出身で、諸侯に自分の政見を説いて回り、連衡を勧め、諸侯が互いに攻めあうように操る策略家であると言われていたため、彼らは恐れられたと言う。
孟子は、「これは大丈夫とは言えないでしょう。君は礼を学んだことがないのですか?男子は20歳を過ぎますと「冠禮」を行い、両親から成人後に遵守すべき道徳規範を教わり、女子は嫁ぐときになると、母親から人妻になる際の心得を教わるのです。女子は「姑を敬い、言葉に気をつけて慎重に行動し、夫に逆らわないように」と告げられるのです。公孫衍、張儀のように相手に阿諛迎合することを正当な規範とするのは、婦女子の道に過ぎません」と答えた。
さらに、孟子は「志を立てる際、天下を包容するこころが必要であり、天下の真中に立ち、もっとも正直な道でなければ歩まないのです。理想が実現できるならば、民衆とともに前進し、理想が実現できないならば、自分ひとりで道を歩み、個人の道徳修養に専念します。財産と地位は其の本性を乱すことはできず、貧賎は其の志を変えることができず、威勢武力は其の身を屈従させることはできない。それこそがまことの大丈夫と言えましょう」と付け加えた。
文/李剣(「孟子」より引用、【正見ネット】より転載)
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