何十年もの間、公衆衛生に関するメッセージでは、抗生物質は処方された分をすべて飲み切るよう人々に促してきました。しかし、研究では、多くの感染症において、より短い治療期間でも同じくらい効果が得られる可能性が示唆されています。
ユタ大学ヘルスとアラバマ大学バーミンガム校の科学者たちによる調査研究では、多くのアメリカ人が、症状が消えた後でも抗生物質を最後まで飲み切る必要があると信じていることが分かりました。しかし、新たな証拠は、多くの一般的な感染症では、より短い治療期間でも同程度の効果が得られ、副作用が少なく、抗生物質耐性菌の増加を促すリスクも低くなることを示しています。
この変化は、患者の習慣や医療現場の実践に根付いた長年のルールに疑問を投げかけ、一律の助言ではなく、個々の患者に合わせた治療計画の必要性を強調しています。
不確かな根拠に基づいていた
『Open Forum Infectious Diseases』に掲載されたこの研究では、アメリカ全土の成人1,475人を対象に調査が行われました。約90%が「抗生物質は必ず最後まで飲み切る」というメッセージを聞いたことがあり、その考えを受け入れていました。また、60%は、肺炎などの呼吸器感染症について、より長い期間の治療を受ける方が安心だと回答しました。一方、より短い治療期間でも感染症を同程度に効果的に治療でき、副作用のリスクも減らせることが、証拠によって示唆されています。
従来の助言は、細菌が生き残り、再感染を引き起こしたり、薬剤耐性を獲得したりするのを防ぐことを目的としていました。しかし、新たな研究では、一部の感染症において、より短い治療期間でも有害な影響のリスクを高めることなく、細菌を効果的に排除できることが示されています。
アメリカ小児科学会などの団体は、こうした理由から、すでに「治療期間は短い方がよい」という考え方へと移行しています。抗生物質の治療期間を短くすることで、薬剤耐性や腸内細菌叢の乱れが生じる可能性を減らせます。
一方、治療期間が長すぎると、体内の正常な細菌のバランスが乱れ、胃腸の不調、アレルギー反応、二次感染、薬剤耐性のリスクが高まる可能性があります。
医師は「最善の推測」に頼っていた
研究に関与していない、ニューヨークのストーニーブルック小児病院で小児感染症部門の責任者を務めるシャロン・ナックマン医師は、標準的な治療期間は、一般に考えられているほど厳密な根拠に基づいて決められていたわけではないと述べました。
「過去に、特定の疾患に対して抗生物質でどれくらいの期間治療するかを決めたとき、私たちはある程度、最善の推測に頼っていました」と、彼女はエポックタイムズに語りました。
こうした推測の起源は、約60年前に行われた連鎖球菌性咽頭炎の研究にさかのぼります。当時、ペニシリンによる短期間の治療では、子どものリウマチ熱を十分に予防できませんでした。その結果、10日間が最適な治療期間であるという「常識」が医療従事者の間に広まったと、彼女は述べました。
問題は、当時使われていたのが旧世代の抗生物質だったこと、患者が注意深く観察されていなかったこと、そして重要な点として、症例の多くにウイルス感染が含まれていたことです。ウイルス感染は抗生物質では治療できません、と彼女は述べました。
「つまり、そもそも抗生物質は必要なく、患者はかなり早く回復しました。それが抗生物質を中止した理由です。実際には、細菌感染ではなかったのです」と、ナックマン氏は述べました。
それ以来、診断技術は進歩しました。
「時がたつにつれて、新しい抗生物質が使われるようになり、さらに重要なこととして、細菌感染とウイルス感染をより正確に診断できるようになりました」と、彼女は述べました。
治療期間はどれくらいが適切か?
すべての感染症を短期間の治療で治せるわけではありません。適切な治療期間は、感染症の種類、感染部位、重症度、患者の免疫反応によって異なります。
抗生物質は細菌にのみ作用します。一方、深部組織や血流に及ぶ真菌感染症では、数日間の治療で済むことが多い細菌感染症とは異なり、数カ月にわたる抗真菌薬による治療が必要になることもあります。
細菌の中にも、排除するまでに時間がかかるものがあります。結核菌を完全に排除するには、6~9カ月にわたる複数の薬剤を用いた治療が必要です。
感染の深さも治療期間に影響します。蜂巣炎などの単純な皮膚感染症では、抗生物質による治療が5~7日間で済む場合があります。一方、血流が乏しい部位の感染症では、薬が有効な濃度に達するまでに時間がかかるため、より長い治療期間が必要になることがあります。
複雑な感染症も、治療に時間がかかります。ほかに健康上の問題がない人の単純な尿路感染症は、3~5日間の治療で改善することがよくあります。しかし、感染が腎臓や血流に広がった場合、治療期間は7~14日以上に延びることがあります。
患者の免疫機能も、抗生物質による治療期間を左右します。免疫機能が正常であれば、体の免疫システムが多くの役割を担います。抗生物質は、体の自然な防御機能が引き継いで感染を抑えられるよう、細菌の数を十分に減らせばよいのです。一方、化学療法を受けている人、進行したHIV感染症を抱えている人、移植後に免疫抑制剤を服用している人など、免疫機能が低下している患者では、より長い治療期間が必要になることが多く、場合によっては感染予防のための薬を継続的に服用する必要もあります。
医療システム
より根深い問題は抗生物質そのものではなく、医師が現在の医療現場で置かれている状況にあるのかもしれません。ナックマン氏は、かかりつけ医と継続的な関係を築いている患者が少なくなり、診察に割り当てられる時間も短くなり続けていると指摘しました。そのため、抗生物質が本当に必要かどうかを時間をかけて話し合うよりも、処方する方が簡単になっていると述べました。
彼女はまた、医療に対する文化的な期待とのずれも指摘しました。テレビドラマでは、1時間の番組の中で、コマーシャルを挟みながら診断、治療、回復までが描かれます。しかし、実際の医療はそのようには進みません。それでも、こうした描写が、患者が7分間の診察に何を期待するかに影響を与えているといいます。
医療現場のインセンティブも、この問題を複雑にしています。
「ある医師が患者を診て、こう言ったとします。『この患者に15分以上かけてしまいました。今日診る必要があった20人の患者を診られず、15人しか診られませんでした。そのため、給料を減らされます』」と、ナックマン氏は述べました。「すべては患者の人数を数えることにかかっています。私たちが望む医療のあり方ではありませんが、それがアメリカの企業が医療を運営する方法なのです」
(翻訳編集 日比野真吾)
ご利用上の不明点は ヘルプセンター にお問い合わせください。