私はかつて大規模な組織の広報部で働いており、虚偽の情報がオンラインでいかに速く、そして簡単に広まるかを目の当たりにしました。ある出来事では、その組織が世界的に注目を集め始めた重要人物を取り上げようとしていました。その人物についてはほとんど知られておらず、全員がその人物の過去や注目されている問題に対する見解を必死に探していたのです。
オンライン上の膨大な情報と騒がしい意見の中で目立とうとする競争のなか、すべてのメディアが「最初に」重要なニュースを報じたいと考えています――この場合、「その人物の関連する発言を最初に見つける」ことです。信頼性や人気、そして最終的にはお金がそれにかかっているのです。
このため、私の組織のソーシャルメディア担当者の一人が近道をし、AIを使ってその人物が主要な問題について語ったとされる引用を探しました。その担当者はAIチャットボットに質問を投げかけ、AIはその人物が発言したとされるいくつかの引用を生成しました。残念なことに、その担当者は内容を確認せずに本物だと思い込み、ソーシャルメディアに投稿してしまったのです。後になってわかったのは、そのAIが誤っており、引用の多くは完全な作り話か、別の人物の発言を誤って帰属していたということでした。
しかし、数時間のうちに私たちの組織が意図せず作り出した偽の引用は、少なくとも6つ以上の他の組織やメディアに取り上げられ、コピーされ、再配信され、正当なものとして扱われてしまいました。私は、それらの引用が多くの組織――中には名の知れたものまで――によって無批判に受け入れられていく様子を見て、衝撃を受けました。
細菌のように増殖し、その日の終わりには、これらの「引用」が無数のウェブサイトに掲載されるようになりました。一般の読者が見れば、それらを本物だと信じてしまうでしょう。多くのメディアが「独立して」同じ言葉を報じているなら、どうしてそれが偽だと思うでしょうか?
この話を共有するのは、インターネット上の誤情報の危険性を強調するためです。もちろん、嘘は昔から存在してきました。しかし、情報がオンラインで伝わるスピードの速さは、虚偽がウイルスのように複製・拡散され、あっという間に「事実」としての地位を得てしまうことを意味します。実際には、その「事実」は単一の誤った情報源から始まっているにもかかわらずです。
インターネットは、驚くほど膨大な情報やデータにアクセスできる場所です。作家として、私はその恩恵に日々感謝しています。インターネットの有用性や、多くの人々に真実への新たな道を開く力を軽視するつもりはありません。しかし、それを万能薬と見るのはナイーブです。インターネットは解決策を与える一方で、多くの課題や困難ももたらします。無限の情報へのアクセスは、実際には「ピュロスの勝利(勝利しても大きな代償を払うこと)」となり、真偽不明の「事実」や意見に埋もれてしまうこともあります。
私たちは、これまで人類が経験したことのないスピードと量で押し寄せる情報の洪水の中で生きています。そのため、情報を見極め、虚偽やプロパガンダ(政治的宣伝)、操作といったものを見抜き、取り除く力が求められます。インターネットのどこにも、意図的あるいは偶発的な偽情報が存在します。政治的立場の左右を問わず、すべての側が誤情報を抱えています。
作家でありジャーナリストである私は、オンライン上の「虚構」と「現実」を見分けることを、時には痛い経験を通して学んできました。以下は、私を助けてくれた戦略のいくつかです。

1.情報源を批判的に評価する
オンラインの情報を判断するときは、まずそれがどこから来ているのかを考えることが大切です。誰が書いたのか、誰が発信したのか、なぜ書かれたのかを確認しましょう。著者が専門的な資格を持っているかどうかを評価することも有用です。資格が真実を保証するわけではありませんが、一般的にその分野に詳しい専門家の意見は、そうでない人よりも信頼できます。
また、著者に偏見があるかどうかも考えるべきです。ほとんどの人には何らかのバイアス(偏り)があります。偏見が情報の真実性を損なうとは限りませんが、念頭に置いておくことが重要です。さらに、著者の動機を理解することで、その情報の信頼性をより深く判断できます。金銭的利益を狙っているのか、他者を支配したいのか、恐怖をあおろうとしているのか――こうした動機は信頼度を下げる可能性があります。情報源が他の資料を引用しているかどうかも確認しましょう。証拠を示さずに主張を並べるだけの情報は、疑ってかかるべきです。
出版社や発信プラットフォームも評価する必要があります。インターネットの技術を使えば、誰でも簡単にプロ並みのウェブサイトやブログを作成したり、他人になりすましたりできます。一般的に、大手で確立された媒体は、複数人のチェックを経る厳格な編集プロセスがあり、正確性を高めています。もちろん、個人ブログが真実を語ることもありますし、大手メディアが常に正直であるとは限りませんが、一般的には編集監修のある媒体のほうが信頼度は高いです。
2.アカウント名やURLを確認する
詐欺師は、信頼されているSNSアカウントを装ったり、そっくりな偽サイトを作ったりします。Facebookのユーザー名やX(旧Twitter)のハンドル名、ドメイン名をよく確認しましょう。コーネル大学図書館は、URLを確認することを推奨しています。偽サイトのURLは本物と非常によく似ており、文字が1〜2個違うだけという場合もあります。
私は教師だったころ、生徒たちに「.edu(大学・教育機関)」「.org(非営利団体)」「.gov(政府機関)」で終わるサイトを利用するよう指導していました。これは「.com」が企業のものであり、その主目的が情報提供ではなく利益追求だからです。
もちろん、政府や非営利団体であっても虚偽を投稿する場合はありますが、ドメインの種類の違いを理解しておくことは役立ちます。
3.クロスチェック(複数照合)をする
主張を確認する際は、複数の証拠を探しましょう。裁判で陪審員が複数の証言を照合して真実を確かめるように、私たちも同様に行うべきです。複数の情報源が「独立して」同じことを述べているなら、それは真実である可能性が高いです。ただし、重要なのは「独立しているかどうか」です。同じ誤情報が繰り返しコピーされることで、あたかも多数派の意見のように見える「偽の合意(false consensus)」が形成されることがあります。そのため、主張の元になった一次情報源をたどることが大切です。複数のサイトが同じ情報源を引用しているだけなら、その「合意」は信頼性を欠きます。
インターネット上の複数の情報源を照合するよりも、書籍や専門家、直接の証言などオフラインの情報で裏付けを取るほうが望ましいです。
4.IMVAIN戦略を使う
ロヨラ・メリーマウント大学ウィリアム・ハノン図書館では、IMVAINという略語を使ってオンライン情報を評価する方法を紹介しています。これは次の意味を持ちます。
Independent(独立性):情報源は独立しているか、それとも利害関係があり偏っているか?
Multiple sources(複数の情報源):複数の独立した情報源が同じ内容を報じているか?
Verifiable(検証可能性):情報は検証可能な証拠や資料を提示しているか?
Authoritative(専門性):情報源はその分野に十分な知識を持っているか?
Named(実名性):情報源は実名で明示されているか、それとも匿名で不明瞭か?

5.情報源の実績を確認する
情報源の信頼性をすぐに判断できないこともありますが、時間が経つにつれてその信頼度は明確になります。ある情報源が長期的に見て正確な報道や予測を続けている場合、その情報はより信頼できます。逆に、誇張した主張を繰り返すが検証に耐えない、あるいは何度も的外れな予測をする情報源は信用しないほうがよいでしょう。過去の記事を調べ、事実の正確性を確認することが大切です。
6.エコーチェンバーに注意し、自分の偏見を認識する
オンライン情報を評価するうえで最も難しいのは、自分の偏見と、アルゴリズムがそれを助長している可能性を自覚することです。インターネットは、同じ考えを持つ人々が集まり、互いの信念を強化し合う「エコーチェンバー」に最適な環境です。多くのサイトや検索エンジンは、ユーザーが好む傾向のある情報を優先的に表示するよう設計されています。これは企業の利益にもつながる仕組みです。
ユーザーが特定の内容に多く反応すればするほど、その信念を支持する情報がさらに提示され、偏りが強化されていきます。
また、私たち自身の検索習慣もこの傾向を助長します。『サイエンティフィック・アメリカン』誌によると、人は自分の考えを裏付ける結果を導くような検索語を選ぶ傾向があります。
カフェインの健康効果を調べる実験では、ある参加者が「カフェインの悪影響」と検索し、別の参加者は「カフェインの利点」と検索しました。前者はカフェインが体に悪いという結果を多く目にし、後者は健康に良いという結果を多く得たのです。
研究を主導したテュレーン大学のユージニア・ルーン博士は次のように述べています。「人は無意識のうちに、自分の信念を反映した検索語を選ぶ傾向があります。検索アルゴリズムは、私たちが入力した語句に最も関連する答えを返すように設計されているため、結果的に私たちの考えをさらに強化してしまうのです」
自分の偏見を意識し、それを補正するよう努めることで、より客観的で包括的な現実の姿をとらえることができます。
(翻訳編集 井田千景)
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