ラボレポートの赤い数値を見るのは衝撃的なことですが、マリア・ブラニャス・モレラさんもそれを理解していました。悪玉(LDL)コレステロールは基準を超え、血中には疾患や老化に関連する遺伝的摩耗の兆候が見られました。
それでも彼女は、世界で認定された最年長女性となり、2024年8月、117歳で平和に眠るようにこの世を去りました――がん、心血管疾患、認知症を発症することなく。
『Cell Reports Medicine』に掲載された彼女の症例は、記録に残るスーパーセンテナリアン(110歳以上)の中でも最も包括的な生物学的プロフィールを示し、私たちがしばしば薬で急いで修正しようとする「ラボの数値」に対する認識に新たな視点を投げかけます。
赤い数値の中に隠れた真実
研究者たちは単なるコレステロール検査を超えた分析を行いました。モレラさんが116歳と74日のとき、「マルチオミクス(遺伝子、タンパク質、代謝物、微生物の包括的解析)」スキャン――血液、唾液、便、尿の分析――によって長寿の手がかりを探ったのです。
結果だけを見ると懸念される内容でした。悪玉コレステロールはやや高く、テロメア(染色体末端を守るキャップ、老化で短縮)は短く、血中にはがんや心疾患に関連する変異があり、免疫系は年齢による低下を示していました。

それでも、彼女は病気になりませんでした。「彼女と話すときの論理的な思考と過去の出来事の記憶力には驚かされました」と研究主任のエロイ・サントス氏はエポックタイムズにメールで語っています。モレラさんは筋肉の損失を防ぐためのたんぱく質サプリメント以外、薬は一切使用していませんでした。
1907年にサンフランシスコで生まれた彼女は、スペイン・カタルーニャに移住し、女性の平均寿命(約86歳)を30年以上も上回りました。よく眠り、地中海式の食事を続け、音楽を愛し、家族とのつながりを大切にしていました。
表面の下にあった「強さ」
モレラさんのラボ結果の一部は、見えない強さを示していました。ミトコンドリア(体のエネルギーを生み出す「発電所」)は、何十年も若い人のように効率的に働いていたのです。

通常は年齢とともに上昇する炎症マーカーが驚くほど低く、腸内マイクロバイオームは多様で若々しい状態を保っていました。ヨーグルト、オリーブオイル、卵、魚などで育まれたビフィドバクテリアが優勢で、「この細菌群は低い炎症レベルと高い免疫機能に関連しています」とサントス氏は述べています。
これらの手がかりは、「部分的には摩耗しているものの、全体としては回復力のある体」という、不均一な老化の姿を描き出しました。エピジェネティック・プロファイル(遺伝子そのものではなく、その発現状態を反映する指標)は、実年齢よりも15~20年若いものでした。
サントス氏はこの状態を「二元性」と呼びました――若々しい健康と明確な老化の兆候が共存する状態です。「まるで非常に古い車のようなものです」と彼は言います。「多くの面でスムーズに走っているが、一部の部品はどうしても摩耗しているのです」
失われた文明の1枚のコイン
1人のケースは何を教えてくれるのでしょうか。ブライトン大学の生物老化学教授リチャード・ファラガー氏は、モレラさんのプロファイルを「失われた文明の1枚のコイン」にたとえました――重要な手がかりではあるものの、それだけで老化という「経済全体」を説明するには十分ではない、という意味です。
ファラガー氏は、センテナリアン(100歳以上)が長寿に到達する道は3つあると語ります。それは、「特異な遺伝」、「他人を死に至らせる要因を偶然くぐり抜けた運」、または「年齢の誤報」です。
「センテナリアンの健康法をそのまま真似してはいけません」と彼は警告します。
多くの長寿者が喫煙を続け、医師を避け、私たちの多くが避けるような生活をしてきたこともあります。彼らは例外的な存在であり、まるで戦場を無傷で渡り切る稀有な兵士のようなものです。
一方、オックスフォード大学で代謝学の博士号を持ち、ハーバードで訓練を受けた医師ニック・ノルウィッツ氏は、「たとえ異例なケースでも教訓になる」と主張します。「1つの症例で長寿の原因を証明することはできませんが、私たちが『知っていると思い込んでいること』に疑問を投げかけることができます」と彼は語りました。

もし「長いテロメア」が必須条件なら、モレラさんの短いテロメアはそれを否定します。もし「非常に低いLDL」が必要なら、彼女の高い数値もそれを否定します。
両者は「文脈」の重要性を強調しました。多くのバイオマーカー研究は病気の人を対象としています。モレラさんの生存は、一般的にリスクとされる要素が、例外的に健康な人には当てはまらない可能性を示しています。遺伝や生存バイアスにより、一部の人には他者に有害なリスクを無視できる特性があるのです。
「本当の問いは何か」とノルウィッツ氏は語ります。「私たちの健康に根本的に重要なのは何であり、医療システムはそれに合っているのか――それとも、薬で下げられる『数値』だけを見ているのか、ということです」
魅了から行動へ
モレラさんのような人物に魅了されることは、彼女自身と同じくらい私たち自身を映し出しています。100歳を超える人を見るたび、私たちは同じ質問をします。「彼女は何を食べたのか?」「秘密は何か?」――単純な法則や成功の公式を求めたくなるのです。
「多くの人は『死は自然なもの』と言いますが、心の奥では誰も自分の『賞味期限』を望んでいません」とノルウィッツ氏は語りました。
モレラさんの物語は、私たちの求める「答え」が必ずしもすべてを語らないことを教えてくれます。長寿は単一の数値や特定の食事法の模倣に依存するものではなく、全体的なシステムの強さ――つまり「回復力」によって支えられています。そしてその回復力は特別な才能ではなく、日々の習慣で築けるものです。
回復力を育てるための習慣:
- 運動: モレラさんは晩年まで活動的で、音楽を演奏し、日々のリズムを保っていました。研究でも、定期的な身体活動が寿命延長に寄与することが示されています。
- 睡眠: 彼女はよく眠り、それが長寿につながる習慣でした。17万人以上を対象にした研究では、良質な睡眠をとる人は男性で約5年、女性で約2.5年長生きする傾向があると報告されています。
- 食事: 彼女の食生活はオリーブオイル、ヨーグルト、卵、魚を中心とした地中海式のものでした。これらの食品は腸内環境を整え、マイクロバイオームを若々しく保つ助けとなります。
- つながり: モレラさんは家族に囲まれて暮らしていました。家族や友人、地域コミュニティとの強い社会的つながりは、コレステロール値や血圧と同じくらい生存率を左右する重要な要因です。
- 信仰: 調査によると、宗教的なつながりを持つ人は平均して5~9年長生きします。これはコミュニティの支えと、生きる意味・目的が関係しています。
- 楽観: モレラさんは希望に満ちた前向きな考え方を持っていました。研究では、楽観的な人はストレスホルモンや炎症レベルが低く、病気からの回復も早いことが示されています。
モレラさんの117年は「不老の魔法の鍵」を明らかにしたわけではありません。彼女が教えてくれたのは、「健康とは完璧な数値ではない」というシンプルな真実です。
「人生すべてが遺伝で決まるわけではなく、習慣も大きな影響を与えます」とサントス氏は語りました。「たとえ彼女の遺伝的特性を持たなくても、日々の健康的な選択によって『質の高い年齢』を重ねることができるのです」
(翻訳編集 日比野真吾)
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