頻繁な下痢は、体内のエネルギーの不均衡や代謝の乱れから生じることが多いとされています。中医学では、全体的な視点から下痢を原因別に分類し、体の自然な調和を取り戻すことを目指した治療が行われます。
下痢のタイプ
中医学で消化の問題(下痢など)を理解するうえで中心となる概念が「湿」です。未処理の脂肪や老廃物が体内にたまることで水分代謝が乱れ、消化不良や軟らかく形のない便につながる可能性があります。
湿は主に「寒湿」と「湿熱」の2タイプに分けられます。
寒湿型下痢
寒湿型下痢は、体内に過剰な寒と湿がたまることが原因で、生ものや冷たい飲食物を摂った後に起こりやすいとされます。主な症状は腹痛、水様便、食欲不振、冷え感で、場合によっては発熱を伴うこともあります。
ニューヨーク・ノーザンメディカルセンターのCEOで、統合医療・中医学を専門とする認定精神科医の楊景端博士は、湿を取り除く古典処方「藿香正気散」や、寒湿型下痢に用いられる複数の中医薬を組み合わせた「保濟丸」を勧めています。
研究では、藿香正気散が腸内フローラや消化酵素のバランスに関与し、寒湿型下痢の症状緩和に役立つ可能性が示されています。また、保濟丸(広藿香やハトムギを含有)は、消化管の不快感にも用いられています。
湿熱型下痢
一方、湿熱型下痢は、湿と熱が結びつくことで炎症と関連しやすく、肛門の焼けるような痛みや、軟らかく粘り気があり悪臭を伴う便が特徴とされます。
楊博士は、清熱・化湿・腸の調整を目的として、「ベルベリン」または「葛根芩連湯」を紹介しています。
研究では、ベルベリンを単独で、またはプロバイオティクスやビタミンBと併用することで、下痢の回復が早まる可能性が示唆されています。
1,800年以上の歴史を持つ葛根芩連湯は、炎症性腸疾患の症状改善に用いられてきたほか、脂肪肝や糖尿病などの代謝性疾患との関連も研究されています。
体内の過剰な「湿」を見分ける方法
エポックタイムズのインタビューで、台湾・心医堂中医院の院長である中医師吳國斌氏は、体内の湿が過剰になっているかを自己評価するためのポイントをいくつか挙げています。
- 皮膚:指の間、手のひら、足の指や足裏に汗疱疹が出やすい
- 四肢:夕方になると足がむくみ、靴や靴下がきつく感じる
- 腹部・下肢:湿が下に滞り、下腹部や脚が重だるく感じる
- 消化:湿が多いと胃腸の働きが低下し、食欲不振や胃もたれが起こりやすい
- 便:便に粘りがあり、一度ですっきり出にくい
- 生殖器:女性はおりものが増えたり膣感染を起こしやすく、男性は鼠径部のかゆみ、排尿時の焼けるような痛み、尿道炎の兆候がみられることがある
- 精神:軽い活動でも疲れが続きやすく、特に午前から午後にかけて強く感じる
「湿」以外の下痢の中医学的視点
湿以外にも、体内のバランスの乱れが下痢を引き起こすことがあります。
その一つが「脾虚型」です。中医学では、消化系を脾のエネルギーシステムの一部と捉えます。主な症状は軟便、頻便、腹痛、疲労感で、重症化すると潰瘍性大腸炎に関与する可能性も指摘されています。
この状態には、「参苓白朮散」(人参・茯苓・蒼朮を含む粉剤)が、脾を補い気を養う目的で用いられます。研究では、単独または従来薬と併用することで、潰瘍性大腸炎に対して有意な効果がみられ、副作用が比較的少ないことが示されています。
肝脾不調型下痢
もう一つの重要なタイプが「肝脾不調」です。日本で中医学を実践する甄立学氏によると、このタイプは西洋医学でいう過敏性腸症候群(IBS)と関連があるとされています。
中医学における「肝」は自律神経系と関係し、ストレスや過度な思考、緊張が「肝鬱(エネルギーの流れの停滞)」を招き、肝の働きを乱します。その影響が脾胃に及ぶことで、腹痛、腹部膨満感、下痢や便秘などの消化管症状が現れます。この状態には「柴芍六君子湯」が一般的に用いられます。
2021年に約2,500人が参加したランダム化比較試験のメタ分析では、中薬がIBS症状の緩和においてプラセボより高い効果を示したことが報告され、治療の可能性が示唆されています。
甄立学氏は、中医学的な治療に加え、健康的な生活習慣や食事の見直しがIBS患者にとって重要だと強調しています。瞑想やヨガなどによるストレス緩和や、心身を安定させる意識が、症状の軽減につながる可能性があるとされています。
下痢の中医学的アプローチ
中医薬だけでなく、全体的なアプローチが下痢の管理や消化機能の維持に重要と考えられています。
腸ストレス緩和のための鍼灸
鍼灸は下痢への対応として用いられる方法の一つです。代表的なツボには「足三里」「上巨虚」「天枢」があり、これらは経絡上の要所として、体の各部位をつなぎ全体的な調和を支えるとされています。

IBS患者90人を対象とした臨床試験では、参加者を3群(特異ツボへの鍼、非特異ツボへの鍼、非鍼群)に分けて比較しました。その結果、特異・非特異ツボへの鍼群では症状緩和率が46.7%、非鍼群では26.7%となり、鍼治療の臨床的価値が示唆されましたが、さらなる大規模研究が必要とされています。
灸(乾燥させた艾を燃やし、ツボに熱を与える方法)も、もう一つの選択肢です。動物研究では、脳と腸の相互作用を調整し、内臓の過敏性を抑え、腸の炎症を和らげ、免疫機能のバランスを整える可能性が示されており、痛みの軽減や下痢の予防につながることが示唆されています。
甄立学氏は、下痢の原因や治療法は多岐にわたるため、専門家の指導のもとで個別に対応することが重要だと述べています。
食事療法
甄立学氏は、軽めの食事を心がけ、糖分や脂肪を控え、温かく消化しやすい食品を中心にすることを勧めています。
山薬・蓮子粥
米粥は胃を養い脾を助けるとされ、下痢が気になる人に用いられてきました。特に山薬粥は、消化のサポートや脾の強化、下痢の緩和に役立つと考えられています。
材料:
- 乾燥山薬(山芋) 30g
- 蓮子 30g
- もち米 30g
- 水 5~6カップ
作り方:
- 山薬、蓮子、もち米をよく洗い、可能であれば一晩浸す。
- 山薬を小さく砕き、蓮子と米と一緒に鍋に入れる。
- 水を加えて強火で沸騰させ、その後弱火で約1.5時間、山薬と蓮子が柔らかくなるまで煮込む。
空腹時に、1日1~2回を目安に食べる。
下痢や嘔吐がある場合は、水分摂取を意識し、体内の水分補給を行って脱水を防ぐことが大切です。
外食時の食品衛生
楊博士は、旅行中の不適切な食事が急性下痢を招くことがあると注意を促しています。安全のため、食品、特に肉・卵・海鮮類は十分に加熱し、未処理の水は避け、こまめな手洗いを心がけましょう。
プロバイオティクスやビタミンCの摂取は免疫のサポートにつながる可能性があります。また、腹部を冷やさないこと、規則正しい睡眠、過度な疲労を避けることも重要です。
上記の生薬は馴染みのない方もいらっしゃるかもしれませんが、健康食品店やアジア食材店で多くが手に入ります。健康上のニーズは人それぞれ異なるため、適切な治療計画については、資格のある医療専門家にご相談いただくことをお勧めします。
(翻訳編集 日比野真吾)
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