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男性の平均寿命が女性より6年短い主な要因

私には65歳の患者がいます。ここでは仮に彼をボブと呼びます。彼は息子を薬物の過剰摂取で亡くしたことに深く打ちのめされました。自らの依存症リスクと健康状態を知るため、ボブは遺伝子検査を受けました。

この検査では160以上の遺伝子を解析した結果、彼の体内にあるFOXO3遺伝子(いわゆる長寿遺伝子)が比較的脆弱であることが判明しました。この遺伝子は、身体のストレス適応力、DNA修復能力、そして老化の速度に密接に関係しています。

なぜ男性と女性で老化のプロセスが異なるのか

何十年もの間、男女の寿命の差については、喫煙・飲酒・健康習慣などの生活要因に焦点が当てられてきました。しかし、研究によると、それは寿命差の一部に過ぎず、FOXO3遺伝子をはじめとする遺伝的要因が重要な役割を果たしていることがわかってきました。

昨年、世界的な学術誌『ネイチャー』に掲載された研究では、FOXO3遺伝子がストレス応答の中枢的な制御因子であり、細胞の健康維持や老化の抑制に寄与していることが示されました。そのため、この遺伝子は老化を制御する重要な因子とされています。

男女の生物学的な違いのひとつは、FOXO3などの遺伝子の活性化方法にあります。最新の研究では、エストロゲン(女性ホルモン)がFOXO3の活性に関与し、女性の妊娠可能年齢の期間において生物学的な保護効果をもたらしているとされています。この要素は、閉経後にエストロゲンが減少しても、女性の長寿を支える一因となっている可能性があります。

一方で、男性は体内のエストロゲン濃度が低いため、FOXO3の活性も弱い傾向があります。そのため、男性が長寿を目指すには、健康的な生活習慣と良好な環境のサポートがより重要となります。しかし、心血管疾患やがん、代謝異常といった疾患リスクが高いため、長寿を目指すことが女性よりも困難になる傾向があります。

生物学的観点から言えば、女性は出産可能な年齢を生き延び、健康な子どもを産み育てるという進化的な使命を担ってきたため、生存に有利な遺伝的な特性が発達してきたと考えられます。FOXO3を含むいくつかの遺伝子が女性でより活性化している可能性があるのです。
 

FOXO3を高めて寿命を延ばす

生物学的な素因(遺伝子)が健康や寿命の基礎を決めているとしても、適切な生活習慣によって状況を改善することは可能です。

2017年の研究によると、FOXO3レベルが低下すると自己修復機能が損なわれ、疾患リスクが上昇することがわかっており、この傾向は特に男性で顕著に現れます。この「修復遺伝子」の機能を最適化するためには、悪習慣を避け、健康的な生活を維持することが求められます。

以下の栄養・ストレス管理法は、男性の健康促進に役立つ可能性があります。

  • 栄養によるアプローチ: 特定の植物性化合物には、エストロゲンに似た作用でFOXO3を活性化する効果があるとされ、健康促進に寄与します。例として、スルフォラファン(ブロッコリースプラウト、ケール、キャベツ、芽キャベツなどのアブラナ科野菜)、EGCG(緑茶)、アスタキサンチン(海産物や紅藻類)、レスベラトロール(ブドウやベリー類)が挙げられます。
     
  • 温冷刺激療法: 定期的なサウナや冷水浴、または冷凍療法は身体にストレスを与え、FOXO3を刺激し、炎症や毒素への防御反応を活性化します。
     
  • 断食プログラム: カロリー制限(例えば間欠的断食)は、FOXO3の活性化を促進し、DNA修復力やストレス耐性を高めることが研究で示されています。
     
  • 運動と低酸素トレーニング: 低酸素環境での高強度トレーニングはFOXO3の活性化を促し、血流改善と身体の回復力を高め、老化に関する問題への抵抗力を強化します。 日常的な暴飲暴食、慢性的ストレス、運動不足、汚染物質やプラスチック製品への頻繁な接触などは、FOXO3の機能を弱める可能性があります。若いうちからストレス管理と健康的な食習慣を身につけることで、FOXO3を早期に活性化し、老化に伴う健康リスクの軽減につながるかもしれません。
     

遺伝的ハンデにどう立ち向かうか?

最終的には、FOXO3遺伝子における男女間の遺伝的差異は今後も維持される可能性が高いと思われます。しかし、研究によれば、男性は食事や生活習慣の対策を積極的にとる事により、健康面でのバランスを取り戻すことが可能です。

たとえ女性がエストロゲンによる何十年もの保護効果を受けていたとしても、不健康な生活をすれば病気のリスクは上がります。したがって、健康的な食生活とライフスタイルは性別を問わず非常に重要です。

ボブの事例は、自分の遺伝的特性を理解することで生活の選択を調整できることを示しています。FOXO3の活性を高めるような習慣を身につけることで、老化への耐性を高め、長期的な健康改善につながる可能性があります。

多くの男性にとって、自分の遺伝子特性に合わせた健康的な生活習慣を取り入れることで、より健やかな老後を迎えるチャンスが広がるでしょう。ただし、それは継続的な努力を必要とするものであり、必ずしも結果を保証するものではありません。

(翻訳編集 解問)

臨床栄養士および自然療法士として、2009年より消化不良、依存症、睡眠障害、気分障害に悩む方々を支援するコンサルティングを実施。大学で補完医療を学ぶ中で、行動神経科学や腸・脳の不均衡に強い関心を抱く。それ以来、栄養ゲノミクス、トラウマにおけるポリヴェーガル理論、および栄養療法アプローチに関する大学院レベルの認定資格を取得。