「たくさんの人がいる部屋の中にいても、完全にひとりぼっちだと感じることがあります」と、カリッサ・リードさんはエポックタイムズに語りました。
周囲では会話が交わされていますが、どのように加わればいいか分からず、不安を感じてしまい、結局参加できないのです。静かにしていればしているほど、自分と他人との距離が広がっていくように感じます。
「ときどき、人々が私のことを素通りして見ているように思います。まるで自分が透明人間になったような感覚です。それは静かで、消えることのない孤独感です。たとえ人に囲まれていても、その孤独は消えないのです」と、リードさんは語りました。
世界保健機関(WHO)が6月に発表した報告書では、「私たちが個人として、そして国家として発展していくためには、他者とつながる力が欠かせない」と強調されています。
しかし現代では、孤独や社会的な断絶がますます一般的となり、地域社会や個人の健康にも大きな影響を及ぼしています。
孤独がもたらす健康リスク
内科医で統合医療の専門家であるスラグナ・ミスラ医師は、新型コロナウイルス感染症のパンデミック以降、多くの患者が社会的つながりを失い、それによって炎症、腸の不調、記憶障害など、さまざまな健康問題が連鎖的に発生していると指摘しています。
社会的なつながりの欠如は、1日にタバコ15本を吸うのと同程度に健康に有害であるとされ、孤独は年間約87万1,000人の死亡に関与していると報告されています。
人間関係が乏しいと、心臓病のリスクが29%、脳卒中のリスクが32%、長期的な高血圧のリスクが36%上昇するというデータもあります。また、2型糖尿病の発症や合併症にも関わっているとされています。
脳も例外ではありません。孤独を感じる人は、認知機能の低下が通常よりも20%速く進行することが確認されています。
これらの影響には、生物学的に明確なメカニズムがあります。社会的な断絶は免疫系、腸内細菌叢(腸内フローラ)、神経内分泌系、心血管系に悪影響を及ぼします。つながりがないことで炎症が促進され、傷の治りが遅くなり、慢性疾患のリスクも高まります。
「社会的な断絶は、健康を損なう要因として見過ごされがちです」と、ミスラ医師はエポックタイムズに語りました。
「以前は週に一度見る程度でしたが、今では毎日のようにこうした症例を目にしています」とも述べています。
また、WHOの「社会的つながり委員会」を統括するアラナ・オフィサー氏も、「孤立は、喫煙、不健康な食事、運動不足などの悪習慣を助長する傾向があります」と指摘しています。
社会的処方(ソーシャル・プリスクリプション)
孤独の問題に対応するための有効な手段のひとつとして注目されているのが「社会的処方」です。これは、ガーデニング活動や運動教室など、地域に根ざした活動に人々を紹介する取り組みで、医療以外のサービスを通じて社会的なつながりを生み出すことを目的としています。
研究によると、社会的処方は孤独感を和らげるだけでなく、多くの慢性疾患の管理にも役立つことが明らかになっています。
「社会的処方は、意図的に取り入れることで、より広く医療システムに統合されるべきです」と、ミスラ医師は語ります。「実際には、個々に合わせた『つながりプラン』を作成し、それを治療計画の一部として組み込み、継続的にフォローアップする必要があります。単なる紹介では不十分なのです」
アメリカでも、図書館の会員制度、ガラス工芸のワークショップ、音楽レッスン、美術館の見学など、社会的処方の一環となる活動が存在します。しかし、最も支援を必要としている人たちには、そうした情報が届かないことも多いのが現実です。
他者に貢献する機会も、社会的な絆を深めるための有効な手段となります。たとえば、ボランティア活動は良い第一歩となるでしょう。
香港で行われた研究では、50〜70歳で一人暮らしをしており、孤独を感じていた人々が、ボランティア活動を行うことで孤独感を軽減できたと報告されています。
この研究では、参加者が6か月間、毎週2時間以上、電話を通じてマインドフルネスの実践、行動支援、または「友達のような交流(ビフレンディング)」を提供しました。その結果、孤独感が減少し、人生の満足度、心理的な幸福感、ストレス管理など、多くの面での改善が見られました。

孤独を逆転させる
孤独を和らげるためには、友人、家族、医療従事者、カウンセラーなどに連絡を取ることが効果的です。人と接するときには、「相手をどのようにすれば敬意をもって扱えるか?」「親切な行動がこの状況をどう変えるか?」と、自問してみるのも良い方法です。
孤独を克服するうえで、もうひとつ大切なのが「自分との関係」を見つめ直すことです。カリフォルニア大学ロサンゼルス校精神医学・行動科学学科の准教授で、レジリエンスの専門家でもあるスティーブン・サイダロフ氏はエポックタイムズの取材にこう語りました。
「自分自身への批判的な考えや否定的な期待が、人とのつながりを妨げていないかを見直すことがとても大切です」と、サイダロフ氏は言います。
このような自己批判や否定的な期待を癒すことは、人生において非常に重要な意味を持ちます。
「自分を愛する力を失ってしまうと、他人とつながる安心感も同時に失われてしまうのです」と、彼は説明します。
ミスラ医師は、孤独や社会的な断絶を感じる人々に向けた、シンプルで実践的なアドバイスをいくつか挙げています。
- 孤独について助けを求めましょう:助けを求めなければ、支援は得られません。最初の一歩を踏み出すことは勇気がいりますが、その行動が人生を変えるきっかけになる可能性があります。
- 小さな一歩から始め、安心して人とつながる方法を見つけましょう:「安全」と感じる基準は人によって異なります。何が自分にとって安全なのか分からない場合は、信頼できる誰かと一緒に定義してみましょう。ファーマーズマーケット、ボランティア活動、趣味のグループなど、自然な交流が生まれる場所がおすすめです。
- 共通の興味を活かしてつながりを広げましょう:自分が好きな趣味や活動を通じて、同じ関心を持つ人と出会うことができます。
「本当に人間関係を育てられる『意図的なコミュニティ』のモデルが必要です」と、ミスラ医師は強調します。
たとえば日本では、高齢の女性が他人のために料理を作る仕事をしています。彼女たちは、収入を得るためだけでなく、「自分が誰かの役に立ち、社会とつながっている」と感じられることに価値を見出しているのです。
「私たちにも同じような精神が求められています。世代を超えて、文化的に安心でき、価値観や倫理観、そして帰属意識を持てるような場が必要なのです」と、ミスラ医師は語りました。
現代における孤独の背景
孤独が広がっている背景には、さまざまな要因が関係しています。
産業化、世俗化、技術の進歩などの社会的変化に加え、性格の傾向やメンタルヘルス、一人暮らしといった個人的な事情も影響しています。
たとえば、産業化は都市での単身生活を増加させ、結果として社会的孤立のリスクを高める要因となりました。
また、宗教の衰退もつながりの喪失に影響を与えています。かつて宗教施設は、帰属意識を育み、定期的な集まりや共同体の機会を提供していました。信仰そのものが、人々に仲間意識や安心感、人生の意味を与えていたのです。
テクノロジーもまた、孤独や断絶を深める要因のひとつです。ミスラ医師によれば、アメリカ公衆衛生局長官が2023年に発表した勧告では、「1日2時間以上ソーシャルメディアを利用すると、孤独感や孤立感のリスクが2倍に高まる」とされています。
COVID-19のパンデミック以降、社会的孤立はさらに深刻になりました。ミスラ医師は、以前は社交的だった患者たちが、パンデミックをきっかけにそのスキルを失い、地域社会から距離を置くようになってしまったケースを多く見てきたと話しています。テクノロジー教育者であり、「Tech Rules」という枠組みを提唱する講演者のアレクサンダー・ベル氏は、『エポックタイムズ』のインタビューで次のように語りました。
「テクノロジーは、24時間いつでも『つながれる』という無限の可能性を約束しているように見えますが、実際には私たちをより孤立させているのです」
「私たちは、ひとりの時間、退屈な時間、自分の思考と向き合う時間になると、すぐにスマートフォンやデバイスに手を伸ばしてしまいます」
しかし、そうした「即時的なつながり」は、人間が本当に必要としている深い交流を満たすものではありません。ベル氏は次のように警告します。「こうした便利さこそが、本物の人間関係を壊す最大の要因かもしれません。スクリーンに依存することで、私たちはかけがえのない『本物のつながり』を失っているのです」
(翻訳編集 井田千景)
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