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脊髄の排尿における役割が解明、失禁治療への道を開く

科学者たちは、脊髄の活動を観察することで、誰かが排尿しようとしているタイミングを予測できるようになりました。これは、膀胱の制御を失った数百万人のアメリカ人に対して、標的を絞った治療につながる初の画期的な発見です。

「脊髄はまだ解明されていない領域です」と、南カリフォルニア大学(USC)の生物医学工学助教授、ヴァシレイオス・クリストポロス氏は声明で述べました。
 

脊髄の活動は排尿と関連している

『Nature Communications』に最近掲載された研究では、研究者たちが機能的超音波イメージング(神経系の血流変化を追跡する技術)を使用し、膀胱が満たされ、排泄される際に脊髄の異なる領域がどのように反応するかを観察しました。

脊髄内の特定の領域が、膀胱圧に関連する観察可能な神経活動を示すことがわかりました。膀胱が満たされるにつれて、脊髄のいくつかの領域はより活性化し、他の領域は活動が低下することから、排尿を促す信号と抑制する信号が存在することが示されました。

「脊髄に膀胱内の圧力と相関する活動領域があることを示した初の研究です」と、クリストポロス氏は述べました。

彼は、これにより脊髄のこれらの領域の活動を見ることで、膀胱の満腹度や排尿のタイミングを判断できると述べました。

研究者たちは、この発見が神経刺激(神経活動を直接刺激する治療法)による尿失禁治療の可能性を提供すると述べています。

この発見は、慢性腰痛の治療を目的とした脊髄刺激装置(電気で神経を刺激する装置)の埋め込み手術中に、術中の開口部を通じて患者の脊髄を安全に画像化するユニークな機会によって得られたとされています。
 

結果は新たな治療法の基盤を築く

尿失禁は3,300万人以上のアメリカ人に影響を与えています。ケース・ウェスタン・リザーブ大学の泌尿器科臨床助教授、アラム・ベンジャミン・ローブ(Aram Benjamin Loeb)博士は、この症状を「かなり孤立を招く症状」と表現し、クリニックでよく見られると述べました。

「患者にとってはスティグマ(社会的な烙印)となり、極度の恥ずかしさを引き起こし、社交や活動の楽しみ、パートナーとの親密な関係を避ける原因となります」と、ローブ氏はエポックタイムズに語りました。

失禁にはいくつかの形態があります。ストレス性尿失禁は、笑ったり咳をしたりといった身体的な動作中に尿が漏れるもので、切迫性尿失禁は、突然強い尿意が起こりトイレに間に合わない状態を指します。

尿失禁は、液体摂取量の制限などの行動修正、骨盤底筋を強化する理学療法、膀胱に尿を保持する抗コリン薬などの薬物治療を通じて対処されると、研究に関与していないストーニーブルック医学の泌尿器科医、スティーヴン・ワイスバート(Steven Weissbart)博士は述べました。

場合によっては外科的介入が必要ですが、多くの手術は低侵襲で、診療所や外来で実施可能だと彼は述べました。

ローブ氏は、膀胱が満たされ、排泄される際の脊髄の活動をリアルタイムで特定することは、尿失禁の原因を理解する上で重要であり、膀胱制御を担う脊髄領域の特定は、脊髄および中枢神経系を標的とした治療の「基盤を築く」と述べました。

クリストポロス氏は声明で、「これらの患者に尋ねると、最も回復したいと望む機能は運動や感覚機能ではなく、性的機能や腸・膀胱の制御といったものでした」と述べました。

また彼は、慢性的な膀胱制御の問題に対する効果的な解決策の緊急性を強調し、排尿に関する問題は精神的健康に影響を及ぼし、重篤な感染症のリスクが高まるにもかかわらず、悪化するまで見過ごされがちだと述べました。
 

これからの長い道のり

ローブ氏は、この研究は有望ではあるものの、あらゆる種類の尿失禁に対する治療法の確立には、まだ長い道のりがあると述べました。

「神経刺激は非常にエキサイティングな分野であり、私たちはまだ氷山の一角を理解し始めたばかりです」と彼は述べました。

USC神経修復センターの所長であり、本研究の共著者でもあるチャールズ・リウ博士は、現在の膀胱治療戦略は主に下部尿路に焦点を当てているが、その神経的な基盤については明らかになっていないと述べました。

本研究には関与していない、シダーズ・サイナイ医療センターの泌尿器科助教授ジャスティン・ハウマン博士によると、現在の治療法は症状の管理に重点が置かれており、多くの患者が不完全な緩和や副作用を経験しているとのことです。

彼は、将来的な研究によって神経を修復し、骨盤筋を強化し、尿道括約筋を再構築できるようになれば、尿失禁は治療可能になるだけでなく、完治も可能になるだろうと述べました。

「これは特に高齢者や手術後の患者にとって革新的なものとなるでしょう」とハウマン氏は述べ、「私の予想では、再生医療技術か神経刺激のブレークスルーによって、症状の管理にとどまらず、失禁の根本原因に対処できるようになるはずです」と語りました。

(翻訳編集 日比野真吾)

がん、感染症、神経変性疾患などのトピックを取り上げ、健康と医学の分野をレポート。また、男性の骨粗鬆症のリスクに関する記事で、2020年に米国整形外科医学会が主催するMedia Orthopedic Reporting Excellenceアワードで受賞。