杜甫の詩に「日月不相饒、節序昨夜隔。玄蝉無停号、秋燕已如客。平生独往願、惆悵年半百。罷官亦由人、何事拘形役。」(『立秋後題』)とあるように、立秋は静かにやってきます。
この時期は、まだ盛夏の熱気が強く残っています。立秋の始まりは毎年西暦の8月7日〜9日ごろで、2025年は8月7日です。立秋から次の節気「処暑」までの間は、まだ「三伏天」にあたり、真夏の熱が残り、強い秋の日差しが照りつけます。この時期を俗に「秋の虎」と呼び、「秋の虎に噛まれる」とも言われています。なぜなら、この期間の乾燥した暑さは体力を消耗し、水分を奪い、体調を崩しやすいからです。立秋に関する民間習慣や養生法も多く存在します。この「粛殺」が潜む季節に、秋の養生で大切なポイントとは? そして、秋にどのような「補い」が必要なのでしょうか?
秋の養生のポイント
1.陰を養う
「天人合一」という考え方に基づき、季節に応じた心身の調整が大切です。秋になると、自然界の万物は春夏の成長から収束に向かいます。したがって、秋の養生では「陰を養う」ことが中心となります。陰を養うとは、体内の血液や津液(水分)を補い、心と体を潤いのあるバランスの取れた状態に保つことです。
2.肺を養う
五行説によると、秋の気は人体の「肺」と関係があります。さらに秋は乾燥しやすい季節でもあるため、肺を養い、津液を補うことが養生の主なポイントになります。秋には、口・唇・鼻・喉・皮膚の乾燥や、便秘などの症状が出やすくなります。これらを根本から改善するためには、秋のうちにしっかり肺を養うことが必要です。
3.乾燥を潤す
立秋から処暑にかけての気候は暑く、かつ日ごとに乾燥していきます。この時期には、羊肉、ネギ、生姜などの辛くて乾燥する食べ物は避け、体内の熱や水分の消耗を防ぐことが大切です。代わりに、酸味のある野菜や果物を食べることで肺の過剰な働きを抑え、肝を守り、脾胃の機能を高めることができます。同時に、陰を補い、乾燥を潤す食材を多く摂ることで、快適な秋を過ごすことができます。
4.穏やかに補う
秋は過度な「補い(栄養補給)」を避けるべき季節です。なぜなら、夏の暑さで冷たい飲み物を摂り過ぎて、脾胃の機能が弱っている場合が多いからです。この状態で栄養価の高いものを大量に摂ると、かえって消化器官に負担をかけてしまいます。したがって、初秋の養生では、油っこくない「平補(穏やかな栄養補給)」を心がけるのがよいでしょう。
秋の養生におすすめの食材
ここでは、秋の養生に適した一般的な食材をご紹介します。
一、白い食材は乾燥を和らげ肺を潤す力が強い
五行の考え方では、肺は「白」に対応するとされ、中医学では秋の乾燥を防ぐために白い食材を多く摂ることが勧められます。多くの白い食材は体を冷やす傾向がありますが、一般的な体質の方なら安心して取り入れられます。中医学でよく推奨される「白い食材」には、ハスの実、レンコン、梨、白きくらげ、山芋、ユリの根、ピーナッツ、マッシュルーム、白菜、キャベツ、サトウキビなどがあります。また、クコの実、黒きくらげ、ハチミツ、ごまも、陰を補い乾燥を潤す食材として手に入りやすいです。

ただし、冷え性やアレルギー体質の方は、寒涼性の食材を控え、肺の防御力を補うことを重視すべきです。白くて温める、気を補う食材、たとえばたんぱく質が豊富な魚や豆乳などを、ユリの根、アーモンド、川貝、沙参、西洋人参などの肺を開いて痰を取り、陰と気を補う中薬と合わせて摂ることで、秋の乾燥を和らげる効果があります。専門医に相談するとよいでしょう。
二、酸味のある食材は肺の気を収める
酸味の食材には「収れん作用」があり、秋に酸味のある食べ物を適度に摂ることで、盛んになりすぎた肺の気を収め、肝の気を守り、肝血を補うことができます。これにより、陰を養う効果が期待できます。たとえば、パイナップル、グレープフルーツ、烏梅(燻製梅)、レモンなどの酸味のある食材は、秋の食事にぴったりのアクセントになります。
三、穏やかに補う食材で陰を養い、体を整える
立秋以降は、生ものや冷たい食べ物を控え、温かく柔らかい、消化の良い食べ物で胃腸を整えることが大切です。「平補」とされる食材──マコモダケ、カボチャ、ハスの実、リュウガン、黒ごま、ハチミツ、クコの実、ナツメ(体が熱を持ちやすい人はハチミツに替えるとよい)、山芋、ささげ豆、ユリの根など──は、陰を養い肺を潤し、胃腸を補い、水分を生み出す効果があります
四、中医学が薦める最強の補い食品──「滋陰の王様」
『本草綱目拾遺』には、「白米粥の上にできる米油(かゆの表面に浮かぶ薄い層)」には、美肌、補血、強壮の作用があると記されており、「滋陰の王様」と称されています。
清代の名医・王士雄も、『随息居飲食譜』で「濃米湯(のうべいとう)」──とろみのある白米粥──を常食することで虚弱を補い、その効果は人参湯にも匹敵すると述べています。現代の中医師・胡乃文氏も「濃米湯」を「天下第一の補物」として推薦しています。忙しくて調理の時間が取れない方は炊飯器で簡単に作れます。水を「とろ粥」と「さら粥」の中間の目盛りにして、お好みで調整するとよいでしょう。朝に一杯の白米粥を飲むと、口の中に潤いを感じながら一日を過ごせます。

また、多くの中医師が立秋の時期に「銀耳蓮子湯(白きくらげとハスの実のスープ)」をおすすめしています。この時期、ハスの実は心の火を鎮め、脾を整えて下痢を防ぎます。乾燥も冷えも少ない白きくらげは、天然コラーゲンが豊富で「植物性のツバメの巣」とも呼ばれています。電気鍋を使えば、簡単においしく作れます。
銀耳蓮子湯のレシピ:
材料:
- 乾燥白きくらげ 1株(新鮮なものならさらに良い)
- ハスの実 30粒
- 種を取ったナツメ 15粒(種を取ることで乾燥しにくくなる)
- クコの実 大さじ2
- 氷砂糖またはハチミツ 適量
作り方:
- 下準備: 白きくらげは水で戻し(新鮮なものならそのまま)、軸を取り、小さくちぎる(細かいほどとろみが増す)。ハスの実は中心の芽を取り除き(乾燥ハスの実は2時間前に水で戻す)。ナツメは種を取る。すべての材料を洗う。
- 炊く: 電気鍋の内鍋に水1000ccと材料(クコの実以外)を入れ、外鍋に水3カップを入れてスイッチを入れる。
- 仕上げ: 炊き上がったらとろみ具合を確認し、良ければクコの実を加えて5分ほど蒸らし、最後に氷砂糖を加えて混ぜれば完成。甘さ控えめが好みなら、50℃以下に冷ましてからハチミツを加えると、さらに潤い効果が高まる。
- 粘度が足りない場合: 外鍋にさらに水1カップを加えてもう一度炊く。

秋の養生に効くツボ押し
秋は万物が次第に枯れていき、「粛殺」の気が高まる季節。このため、気分が沈みがちになり、憂鬱を感じやすくなります。そこで、秋の生活習慣としては、早寝早起きがおすすめです。早く寝ることで身体がエネルギーを蓄えやすくなり、早起きすることで肺の気を伸びやかに保つことができます。加えて、ツボのマッサージを取り入れると、気持ちを安定させ、快適な秋を過ごす助けになります。中医学では、以下の2つのツボを押すことが勧められています。
一、太衝(たいしょう)のツボ
太衝のツボは「足厥陰肝経(あしけついんかんけい)」に属するツボで、肝血の調整や気を補う働きがあり、ストレス緩和や精神安定にも効果があるとされています。
場所: 足の甲の一番高い部分、親指と人差し指の骨の間にある指の付け根から、指2本分(人差し指と中指)ほど上の位置。
押し方: 親指で円を描くように優しく押し揉みます。力加減は心地よい程度にし、1回あたり4〜5分が目安です。

二、合谷(ごうこく)のツボ
場所: 親指と人差し指を揃えると、手の甲の親指側のふくらみ(虎口)が現れます。その最も高い位置から人差し指側にある場所が合谷のツボです。押すとズーンとした刺激(鈍い痛み)を感じやすい箇所で、気血の巡りを良くする効果があります。
押し方:
1. 親指で押す方法: もう一方の手の親指で垂直に押します。軽い鈍痛や圧迫感があればOK。
2. 円を描く方法: 指で円を描くように30秒間優しく揉みます。左右の手を交互に行います。
どちらの方法も、1日に2〜3回、各1〜2分を目安に行うと良いでしょう。

立秋の民俗と養生
立秋の日に行われる民間の習慣は、多くが赤痢や疫病の予防に関係しています。
一、キササゲ膏を煎じてできものを治す
キササゲ(楸)は、アオギリと同様に秋の始まりに最も早く葉を落とす木です。「楸」の発音は「秋」と同じで、秋の象徴として親しまれ、田舎ではよく見かける樹木です。
唐代には、立秋の日に都の市場で楸の葉が売られ、女性や子どもたちが花の形に切って髪飾りとして付け、秋を迎える装いとしていました(『本草綱目・木二・楸』より)。宋代になってもこの風習は続き、北宋から南宋にかけて、都の人々は立秋の日に楸の葉を買い、花型に切って頭飾りにするという伝統を変わらず守っていたそうです(『夢粱録・七月立秋』より)。
楸の葉は飾りとしてだけでなく、できものや腫れ物を治す薬としても使われていました。立秋の日の朝日が昇る前に楸の葉を摘み、その汁を搾り濃く煎じて膏にし、保存しておくことで、皮膚の炎症を抑える民間療法とされていました。
二、「秋をかじる」──瓜を食べて腹痛予防
立秋に瓜を食べることを、民間では「咬秋(こうしゅう)」と呼び、お腹を壊さないおまじないとされてきました(清代・張焘『津門雑記・歳時風俗』より)。昔の天津や北京では立秋にスイカを丸かじりし、杭州では秋の桃を食べるのが習慣でした。いずれも、冬や翌春の下痢予防を目的とした食養生です。また、山東省莱西地区では、豆の粉や青菜を使って作る「小豆腐(渣)」を立秋に食べる風習があり、現地のことわざには「立秋の渣を食べれば、大人も子どもも吐かず下さず」とあります。
三、小豆を飲み込み 秋水を飲む
立秋に行われる民間伝承には、「秋の方角(西)に向かって、井戸水で小豆を7粒または14粒飲み込めば、秋の間赤痢にかからない」というものがあります。
また、「鶏の鳴くころ(早朝)に井戸水を汲み、年齢を問わず少量を飲むと百病を防ぐ」とも言われてきました。ただし、現代の都市では井戸を見つけるのが難しくなっています。
快適に秋を過ごすために
『黄帝内経・素問・四気調神大論』には、「四季に応じて養生するには、春は生(成長)、夏は長(発展)、秋は収(収穫)、冬は蔵(蓄え)」という自然の流れを理解することが大切だと書かれています。立秋を迎えると、自然界の陽気は次第に収まり、秋風が強まります。この時期は睡眠時間をやや長めにとり、「早寝早起き」を心がけるとよいとされています。早く寝ることで陽気の収束に合わせ、早く起きて運動したり日光を浴びたりすることで肺の気がのびやかになり、秋の養生リズムに合った生活ができ、心身ともに快適に過ごせるでしょう。
(翻訳編集 華山律)
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