「房謀杜断(房の知恵と杜の決断)」とは、中国唐代の宰相である房玄齢(ほうげんれい)と杜如晦(とじょかい)のことを崇める言葉です。
二人はともに名門の家柄の出身、卓越した才能の持ち主です、才能や知恵を発揮し、当時の皇帝―唐太宗から絶大な信頼を得て、活躍しました。二人の間に嫉妬や疑いを抱くことはなく、二人三脚で協力し、国や民のために力を尽くし、唐の繁栄に大きく貢献しました。二人は歴史に名を残す偉人として記憶されました。
武徳4年(西暦621年)、のちの太宗皇帝、当時は秦王である李世民が文学館を設立し、多くの人材を招集しました。そのうち、「秦王府十八学士」がもっとも有名で、房玄齢と杜如晦もその一員でした。
二人は李世民に従い、出征しました。房玄齢は詩文の逸材で、書類、軍事情報や公文を管理しました、李世民に代わって朝廷に出向き、報告することも多々あります。当時の高祖皇帝は「房玄齢は息子に代わって天子に奏上する奏事(そうじ)に来たのに、千里先の本人と直接に話しているのようだ」と称賛しました。一方、杜如晦の長所は分析と決断で、軍事行動の判断は非常に迅速でした。二人は知恵を絞り、戦略を練り、見事な連携ぶりは李世民に賞賛され、厚い信頼を寄せられました。
李世民軍は敵を打ち破り、城を占拠するたびに、将軍たちは珍品や財宝を手当たり次第にあさっていましたが、房玄齢だけは人材を目当てにかき集め、李の家臣を充実させました。勇敢かつ有能な将軍を出会うたびに、房玄齢は積極的に仲を深め、李世民のために働くのよう誘い込みます。李世民が長安を平定した後、唐高祖皇帝は李世民の勢力を分散させるため、秦王府に所属する官員を地方に異動させました。その中には杜如晦も含まれていました。それを知って、房玄齢が李世民に「杜如晦は帝王を補佐する才能の持ち主で、天下を取りたいなら、この人の力は欠かせない」と進言しました。李世民をこの話を聞いて、急いで杜如晦を自分の秦王府に呼び戻しました。
「飛鳥尽きて良弓蔵(かく)る、狡兎(こうと)死して走狗烹(そうくにる)」ということわざがあります、つまり、必要なときには大事にされて使われるが、目的が達成されたら簡単に捨てられるということのたとえです。歴代王朝では、功績を挙げた後に粛清される運命に強いられた功臣や名将が多くいました。
しかし、唐太宗李世民は仁徳がある皇帝で、賢者を敬い、人材を大事にしました。彼は皇帝を即位した後、功績がある人が正しく評価され、天寿を全うするようになりました。
唐太宗の貞観3年(西暦629年)、房玄齢と杜如晦はそれぞれ左僕射(さぼくやく)と右僕射(うぼくやく)に任命され、唐太宗は二人の才能と実力を買って、十分な信頼と権限を与えました。
千里の馬が伯楽に出会ったように、房玄齢と杜如晦は職務に忠実で責任を全うし、心を一つにし国のために尽力しました。彼たちは功績に傲ることはなく、権力を笠に着て威張ることもありませんでした、それどころか、謙虚な姿勢で、広く人材を集めました。おかげで、朝廷には各種の人材が集まり、自由に意見を述べられる環境も整えました。これより、当時の唐において、政治、経済、農業、宗教、文化などあらゆる分野で大きな発展を遂げました。
繁栄かつ安定した社会を築き、民が安定した生活を送れるようにするため、房玄齢と杜如晦は先代の隋王朝の制度を基礎とし、歴史の各王朝の教訓を取り入れ、より完備された法典律令制度を作成しました。また、苛酷な法令を廃止し、国益を増やし、民衆に恩恵を与えました、努力の末、政治基盤を整え、「貞観の治」と呼ばれる中国史上、最も安定した治世の一つを築きました。
房玄齢は政務に精通し、文才も優れ、公務を処理する際にも慎重し、法の運用にも細心の注意を払い、公正公平が保たれています、また、彼は寛大かつ度量も広い人でした、賢明な唐太宗は国のことをいつも房玄齢の意見を伺って検討し、そこに優れた決断力の持ち主である杜如晦を加わって、三人が揃って、最強なコンビとなります。
貞観4年(西暦630年)、杜如晦が重病を患い、唐太宗が皇太子に看病に行かせた上、自らも見舞いに行きました。しかし、杜の容態は次第に悪化、帰らぬ人となりました。享年46歳でした。唐太宗はとても悲しくて、杜如晦を思い出すたびに涙を流し、感傷的でした。
貞観22年(西暦648年)、房玄齢も危篤となり、唐太宗は皇帝の輿を使って、彼を玉華宮に迎え、皇居で療養させました。房玄齢がこの世を去った際も、唐太宗は大いに悲しくて、ショックでした。その後、王女の城陽姫と高陽姫は房玄齢の長男と次男に嫁ぎました。
貞観17年(西暦643年)、唐太宗は、共に天下を平定し、治めた功臣たちを記念するために凌煙閣を建て、宮廷画家である閻本立が房玄齢と杜如晦を含め、24名の功臣の肖像画を描いて飾られました。唐太宗はこの場所を頻繁に訪れ、過去を追想したと言い伝えらえています。
(翻訳編集 正道 勇)
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