子供のおもちゃやキッチン用品に潜む有害物質とは?

あなたのキッチンにある黒いプラスチック製のヘラには、実はリサイクルされた電子機器由来の有害な化学物質、難燃剤が含まれているかもしれません。そして、それが家族の食事に移る危険性があるとしたら、心配になりませんか?

最近の研究では、日常的に使われる黒いプラスチック製品に潜む健康リスクについて警鐘が鳴らされています。調査の結果、キッチン用品やおもちゃ、食品容器など、多くの製品にがんや発達障害と関連する難燃剤が含まれていることが明らかになりました。

2020~22年にかけて、シアトルで購入した203点の黒いプラスチック製品を調べたところ、懸念されるレベルの有害な難燃剤が見つかりました。特に注意が必要なのは、食品接触材料、キッチン用品、おもちゃです。

研究に参加したメーガン・リウ氏は、「これらのカテゴリの製品は、特にリスクが高い」と述べています。キッチン用品から食品への有害物質の浸出や、おもちゃから子供たちへの移行が確認されたためです。

研究者たちは、これらの難燃剤がプラスチック製品に混入するのは、リサイクルの過程で元々電子機器に使われていた物質が残ってしまうためだと考えています。

この研究結果は、日常生活で使う製品に含まれる有害物質に対する規制が、もっと厳しくなるべきだということを強く示唆しています。家族の健康を守るためにも、製品の安全性に対する意識を高め、より安全な選択をすることが求められています。

 

電子廃棄物ー汚染の原因

電子機器のリサイクルが意外なところに影響を与えているかもしれません。調査では、キッチン用品109点、おもちゃ36点、ヘアアクセサリー30点、食品容器28点(テイクアウトトレーを含む)などが対象となり、身近な製品に含まれる汚染の実態を探りました。

研究者たちは、電子機器のリサイクル施設が難燃剤の主な供給源であると特定しました。電子機器のプラスチックには安全性のために難燃剤が使われており、そのリサイクルが問題を引き起こしているのです。

「電子機器のプラスチックは、難燃性が必要のない家庭用品にもリサイクルされることがあります。その結果、必要のない化学物質への暴露が増えてしまいます」と研究者たちは指摘しています。

毒物フリー・フューチャーという団体のリウ氏は、「こうした発がん性のある化学物質は、リサイクルを通じて環境や家庭に侵入しており、本来使用されるべきではないものです」と強調しています。

さらに研究では、カナダ、中国、スペイン、アメリカなど、各国の電子廃棄物リサイクル施設周辺や施設内の空気や埃にも難燃剤が含まれていることが確認されました。中国やベトナムのリサイクル施設周辺の土壌サンプルでも有害物質が見つかっています。

このことは、「難燃剤を含む電子機器のリサイクルが、人々や環境への広範な暴露を引き起こしている」という証拠をさらに強固にしています。

調査対象製品の中でも、特に子供向けのビーズネックレスに高濃度の難燃剤が含まれており、1キログラムあたり2万2800ミリグラムに達していると報告されています。「子供たちは特に脆弱な存在であり、発がん性や内分泌撹乱、神経毒性などの影響が幼少期から及ぶ可能性があるのは非常に心配です」とリウ氏は述べました。

最近の『Nature』誌に掲載された研究によると、アメリカの成人における血中難燃剤濃度の上昇が肺機能の低下と関連していることが明らかになりました。また、ヨーロッパ、アジア、アフリカで行われた研究でも、製造過程で難燃剤が使われていないはずの製品(例えばヘアアクセサリーやオフィス用品など)にも難燃剤が含まれていることが判明しました。

 

母乳から検出された難燃剤

電子機器に使われる有害な難燃剤が人間にどのような影響を与えているのかを調べるため、研究者たちは調査を始めました。「テレビなどの電子機器の外装に使われる黒いプラスチックには、意図的に難燃剤が添加されています」と、毒物フリー・フューチャーのリウ氏は説明します。しかし、母乳から初めてこれらの化学物質が検出されたことは、予想外で衝撃的な発見だったそうです。

他国の研究をもとに、研究者たちはアメリカでも同様の汚染があるかを調査することを決めました。「これまでの研究では、英国、アフリカ、アラブ諸国、ロシア、中国、インドネシアで購入された製品から難燃剤が検出されていましたが、アメリカでおもちゃや食品接触材料の調査が行われるのは今回が初めてです」とリウ氏は述べています。

 

禁止された難燃剤も検出

一部の電子製品には、DecaBDEと呼ばれる難燃剤が使われており、これは神経毒性や内分泌撹乱、さらにはがんなど深刻な健康被害を引き起こすことが知られています。国際環境法センターによると、DecaBDEは最近ストックホルム条約で世界的な禁止が提案されたにもかかわらず、研究者たちが検査したプラスチックからは依然としてこの物質が検出されました。

研究の著者たちは、以下の三つの問題が食品や子供が触れる製品の汚染の根本原因だと指摘しています:
 

・消費者製品への有害な難燃剤の継続的な使用

・使用制限の欠如

・不適切に管理されたリサイクル慣行

「この問題を消費者の選択だけで解決することは難しいです。必要なのは、企業と政府が有害な難燃剤や危険なプラスチックの使用を制限することです」とリウ氏は強調しています。

リウ氏は「より安全な代替品はすでに存在しています」と述べており、「制限を設けることで市場を安全な方向へと導くことができるのです。有害な化学物質の供給を止め、特に女性や子供など脆弱な人々の健康を守るためにも、しっかりとした規制が必要です」と訴えています。

(翻訳編集 華山律)

記者、編集者、作家。最近では、米国の国境警備隊捜査官の殺害事件を扱った実録本『Who Shot Nick Ivie(仮題:誰がニック・アイビーを撃ったのか)』を執筆。妻のケイトとともにイリノイ州中部で暮らす。