血圧薬の使用中止が認知機能の改善に効果?新たな研究結果が示唆

高齢者が血圧薬を中止した場合、特に認知症を患っている人々において、認知機能の低下が遅くなることがわかったとする研究結果が、『JAMA Internal Medicine』に発表されました。この研究は1万2千人以上の参加者を対象に行われ、高齢者の高血圧治療に対する従来の見解に一石を投じています。

研究チームは「介護施設に住む認知機能が低下している高齢者に対する強力な血圧管理には慎重な判断が必要である」と指摘しており、特に長期ケアの現場での薬物管理のあり方について新たな課題を提起しています。

また、この研究では、高齢者に処方される高血圧薬と過剰投薬の問題が関連付けられています。高齢者の約半数が5種類以上の薬を服用しており、これが健康リスクを引き起こす可能性があることが懸念されています。特に、高血圧薬は多剤併用の主な要因となっており、70%の高齢者がこの薬を処方されています。

 

減薬による認知機能の改善が確認される

高血圧薬を減らした患者では、認知機能の低下リスクが16%減少することがわかりました。

この研究は、カリフォルニア大学サンフランシスコ校、スタンフォード大学、退役軍人医療センターに所属する研究者によって行われ、1万2千人以上の介護施設入居者を対象に、高血圧薬と認知機能の低下との関係を調査しました。参加者全員が何らかの認知機能障害を抱えていました。

13年間にわたって行われたこの研究では、退役軍人長期施設に12週間以上入所していた参加者を対象にしました。この研究は国立老化研究所の助成金によって資金提供されました。

研究者は、「今回の結果は、特に認知症を患っている介護施設の入居者において、高血圧薬の減薬が将来的な認知機能の低下を防ぐ可能性があることを示唆しています」と述べています。

「中年期の高血圧が認知機能の低下リスクを高めることは広く知られていますが、高齢者、特に介護施設に住む方々にとっての最適な血圧目標はまだ明確ではありません」

これまでの臨床試験では、高血圧薬が認知機能の低下に与える影響について、結果がまちまちでした。しかし、今回の研究では高血圧と認知症を併発している高齢者に焦点を当てた点が他と異なり、従来の研究は比較的健康な高齢者を対象にしていたことが多かったと説明されています。

この研究の主な著者の一人、ミシェル・オッデン氏は『エポックタイムズ』のインタビューで、「減薬によって脳への血流が改善し、それが認知機能の向上につながった可能性がある」と語りました。

「脳血管疾患を持つ人は、脳内の適切な血流を維持するのが難しいという証拠もあります」と、スタンフォード大学疫学・人口健康学部の准教授であるオッデン氏は付け加えています。

オッデン氏が2019年に発表した別の研究では、機能的に健康な高齢者において、高血圧が認知スコアの低下と関連していることが明らかにされています(『Journal of Hypertension』に掲載)

 

その他の薬に関するリスク

高血圧薬には、認知機能への影響以外にもリスクがあります。

「高血圧薬は心血管リスクを軽減しますが、転倒や起立性低血圧、薬剤間相互作用などの副作用のリスクも伴います」と研究者たちは報告しています。

起立性低血圧とは、立ち上がったときに血圧が低下する状態を指します。

2023年の研究によると、介護施設における最適な血圧管理については不確実性が残っており、これは主にこの年齢層が臨床試験の対象から除外されていることが原因です。この2023年の研究は、今回の研究と一部の著者を共有しており、退役軍人施設に入居している76%以上の入居者が高血圧薬を服用しており、そのうち20%が3種類以上の高血圧薬を服用していることが判明しました。

 

研究結果の相違

研究のパラメータによって異なる結果が出ることは珍しくありません。血圧薬が認知機能に与える影響を評価する研究でも、結果は一貫していません。

最近発表されたレビューでは、一部の血圧薬が認知機能低下のリスクを減らす可能性があることが示唆されています。

この分析は、60歳以上の3万1千人以上を対象とした14件の研究データに基づいており、薬を使用していない人々ではアルツハイマー病を発症するリスクが高いことが示されています。

アメリカ、ブラジル、中国など複数の国から参加者が集められたこれらの研究の平均追跡期間は4年でした。

 

高齢者には個別の治療が必要

オッデン氏は、医師は患者の健康問題を最適にサポートするために、個別のコミュニケーションを通じた「患者中心」のアプローチを実践するべきだと述べています。

「特に余命が限られている高齢者に対しては、治療の目標をしっかり話し合うことが重要です」とオッデン氏は言います。「高血圧薬には多くの重要な利点がありますが、一部の高齢者においては、その利点が潜在的なリスクを上回らない場合もあります」

研究者たちは次のように述べています。「この研究は、減薬において患者中心のアプローチが必要であることを強調しています。高齢者の認知機能を維持し、潜在的な害を最小限に抑えるために、薬物療法が最適化されるべきです」

 

(翻訳編集 華山律)

記者、編集者、作家。最近では、米国の国境警備隊捜査官の殺害事件を扱った実録本『Who Shot Nick Ivie(仮題:誰がニック・アイビーを撃ったのか)』を執筆。妻のケイトとともにイリノイ州中部で暮らす。