筋肉増強の敵? 吸収不良の原因と改善方法

筋肉や筋力をつけるために、十分なタンパク質を摂取し、栄養豊富な食事を心がけ、定期的にレジスタンストレーニングを行うなど、正しい方法をすべて実践しているかもしれません。しかし、消化器官が筋肉の成長と維持に必要な栄養素を適切に吸収できていない場合、その努力は十分な効果を発揮しない可能性があります。
 

食物の適切な吸収が鍵

骨格筋を維持することは、機能的能力と代謝の健康を保つために極めて重要です。筋肉量の維持は、筋肉の合成(タンパク質合成)と分解速度のバランスによって調節しています。この2つのプロセスは、食事内容や運動量に大きく影響され、特にタンパク質の摂取量が筋肉合成率に直接関係します。しかし、タンパク質の消化やアミノ酸の吸収には、さまざまな要因が関わっています。

「吸収不良は栄養失調を引き起こし、筋肉を消耗させるため、筋肉のサイズや筋力を低下させます」と、登録栄養士でスポーツ栄養学の専門家でもあるヤシ・アンサリ氏は指摘しています。筋肉量を維持するためには、単にタンパク質を多く摂取するだけでなく、吸収不良の原因を理解することが不可欠です。

アンサリ氏によると、タンパク質源の量が多いだけでなく、質が高く(必須アミノ酸をすべて含む)消化しやすいものであることが重要だといいます。牛肉、鶏肉、魚、キヌア、そばなどは、必須アミノ酸をすべて含む優れたタンパク質源の例です。

キヌアは優れたタンパク質源の一つ(Shutterstock)

 

消化酵素の役割と栄養の吸収

消化酵素もまた、栄養素の適切な吸収と消化に重要な役割を果たしています。消化酵素は、体内で大栄養素(脂肪、タンパク質、炭水化物)をそれぞれの成分に分解します。以下の3つの主な酵素がそのプロセスを担います。

  • 炭水化物を分解するアミラーゼ
  • 脂肪を消化するリパーゼ
  • タンパク質の代謝を助けるプロテアーゼ

食べ物を噛むことによって、消化酵素の一部が唾液とともに分泌されます。胃に達すると、塩酸とペプシンなどの消化酵素を放出し、胃酸が唾液アミラーゼを中和し、食物をさらに分解します。そこに追加で、膵臓から分泌されるリパーゼ、プロテアーゼ、膵アミラーゼなどが消化を助け、肝臓で生成された胆汁は脂肪の消化を促進します。生の植物食品(野菜や果物)にも消化を助ける酵素が含まれています。
 

吸収不良の原因とは?

吸収不良の原因には、感染症、食物不耐性、アレルギー、消化酵素の不足など、さまざまな要因があります。「健康なマイクロバイオーム(腸内フローラ)は栄養吸収を促進しますが、そのバランスが崩れるディスバイオーシス(腸内異常症)は吸収不良を引き起こす可能性があります」と、バイオテクノロジー企業のバイオム・ファーマシューティカル社のCEO、ボバン・スバドラ氏は説明しています。

加齢によっても腸の機能が変化し、消化酵素の産生が低下するほか、腸の運動性も変わります。また、特定の薬剤、特に抗生物質やプロトンポンプ阻害薬(PPI)は腸内フローラを乱し、栄養の吸収を妨げる可能性があります。加えて、食物繊維の少ない食事や加工度の高い食事、胃バイパス術なども栄養吸収に影響を与えます。
 

栄養吸収を改善するための戦略

筋肉の成長に欠かせないアミノ酸の吸収を最大限にするためには、いくつかの戦略が有効です。トレーニング後30~60分は、グリコーゲンの補充と筋タンパク質合成のために「アナボリックウィンドウ」と呼ばれる吸収効率が最も高い時間帯です。ここで炭水化物と必須アミノ酸の摂取が、最適な効果をもたらします。

炭水化物と必須アミノ酸を摂取することが、最適な効果をもたらす(Shutterstock)

 

スバドラ氏は、以下のような栄養吸収を改善するための具体的な方法を提案しています。

  • 食物繊維、プロバイオティクス、プレバイオティクスが豊富な食事で腸内細菌の健康をサポートする。
  • 十分な水分補給で消化と吸収を助ける。
  • 発酵食品、浸し食品、軽い調理で栄養素の生物学的利用能を高める。
  • 少量の食事を頻繁に摂ることで消化を促進する。
  • 消化酵素のサプリメントを活用し、栄養素の吸収率を高める。

さらに、アンサリ氏は、便検査、血液検査、呼気検査などを通じて、まず医師に相談することを勧めています。その後、登録栄養士の指導を受け、個別の栄養アドバイスを受けるとよいでしょう。

 

(翻訳編集 呉安誠)

ゼナ・ルー・ルーは、健康ジャーナリストで、健康調査ジャーナリズムの修士号を持ち、機能栄養に特化した認定健康およびウェルネスコーチです。スポーツ栄養学、マインドフルイーティング、内的家族システム、および応用ポリヴェーガル理論のトレーニングを受けています。彼女はプライベートプラクティスで働き、英国に拠点を置く健康学校の栄養教育者としても活動しています。