マサチューセッツ工科大学(MIT)の新しい研究により、ダウン症の原因が、細胞の老化の原理と似ている可能性があることがわかりました。これは、ダウン症の治療に、全く新しい研究の道を開く可能性があります。
正常なヒトは各染色体のコピーを2つ持っていますが、ダウン症患者は21番目の染色体のコピーが一つ余分にあり、科学者はそれをトリソミー21と呼び、ダウン症患者の認知障害の原因になっていると考えています。
RNAシーケンスを使った最近の研究では、遺伝子が過剰に発現する問題が余分なコピーを有する21番染色体にあるだけではなく、ダウン症患者の各染色体にも同様の問題があることを判明しています。
MITのヒルイ・メハレナ氏が率いるチームは、この原因を正確に理解するために、ダウン症患者の脳細胞を研究しました。余分にコピーされた染色体は細胞内の正常な染色体の形態を変化させ、遺伝子の転写、表現、細胞機能に老化細胞と同様の影響を与えることがわかりました。
「細胞核は混雑したエレベーターのようなもので、荷重がいっぱいかかっているのに、この余分な染色体が押し込まれることによって、他の染色体が押し合うのです」とメハレナ氏は指摘します。
この余分な染色体によって、他の染色体が脇に押し詰められ、一部が折り畳まれたりして、細胞がうまく働かなくなることを研究者は突き止めました。それは、老化によって細胞がうまく働かなくなるのと同じことです。
老化した細胞は、より多くの欠陥のある細胞の生産を止めるため、あるいは癌を引き起こすのを防ぐために、分裂能力を失います。 体の免疫システムは、サイトカインの働きによって、これらの老化した細胞を自動的に除去するのです。 しかし、体が老化してくると、免疫システムが追いつかなくなり、老化した細胞が蓄積され、炎症や内部細胞の何らかの変化を引き起こすことがあります。
ダウン症患者には老化が早い現象があり、平均寿命は60歳であるのに対し、アメリカ人の平均寿命は79歳です。
この仮説を検証するため、研究者らは、ダサチニブとケルセチンの組み合わせ抗老化薬を使って、ダウン症患者の脳細胞を治療してみました。この研究で使われた脳細胞は、若くして亡くなった複数のダウン症患者から採取され、さらに実験室で培養されたものです。
その結果、これらの薬がダウン症患者の細胞にも効いていることがわかったのです。しかし、これらの薬剤は副作用が大きく、ダウン症の治療に直接使用するのは不適です。
研究者らは、今回の研究は新しい理論の予備的な展開に過ぎず、これらの薬剤をダウン症の治療法の選択肢として検討する前に、同様の治療効果を再現する大規模な研究が必要だと述べています。
この研究は、1月6日付の学術誌『Cell Stem Cell』に掲載されました。
(翻訳・橋本 龍毅)
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