【医学古今】渾身の生薬

ー桑ー

糖尿病や高血圧、脂質異常症などに効く健康食品として、最近注目されているの葉。漢方医学では、桑の木はそのほとんどが生薬として使えます。桑の木は言わば「渾身の生薬」なのです。

 1. 葉

桑の葉は桑葉(そうよう)という生薬として主に風邪の治療に使われます。特に、春の季節に流行る咳、発熱、咽喉痛、頭痛などを主症状とした風邪に、菊花、桔梗、杏仁、薄荷などの生薬と併せて用いられます。代表的な処方は、桑菊飲(そうぎくいん)です。

 2. 枝

桑の細い枝は、桑枝(そうし)という生薬としてリウマチや関節炎による関節痛の治療によく使われ、特に上肢の関節痛に効果を発揮します。例えば、桑枝を濃く煎じた液に氷砂糖を加えて生成した桑枝膏(そうしこう)は、四肢の関節痛や痺れによく効きます。副作用はなく、非常に安全な薬です。桑枝は灸療の材料としても使われています。中国明代の医学書『医学入門』には、桑枝の灸を用いて慢性化した皮膚膿腫を治療する方法が記載されています。

 3. 根皮

桑の木の根皮は、桑白皮(そうはくひ)という生薬として喘息の治療に使われます。代表的な処方は五虎湯です。桑白皮には利尿消腫、降血圧の作用もあるため、高血圧の治療にも用いられます。

 4. 実

桑の実は、桑椹子(そうじんし)という生薬として肝腎陰虚による眩暈、耳鳴、不眠、便秘、若年の白髪などに用いられます。

 5. 桑の木の木炭

桑の木を焼いた木炭にも薬用効果があります。『黄帝内経・霊枢』には、寒邪による関節痛を桑の木の木炭で温めて治療する方法が記載されています。また、桑の木を薪として用いて薬を煎じると、その薬は「風寒の邪気を追い出す力が強くなる」と『本草綱目』に記載されています。

 6. 汁液

 『聖惠方』に、「子どもの唇が腫れた時には、桑の木から取れた汁液を塗り付けるとすぐに良くなる」という記載があります。

 

その他、桑に関連する生薬です。

  • 桑寄生(そうきせい)

 桑に寄生する蔓のような植物は桑寄生という生薬として使われ、祛風湿、補肝腎、強筋骨、安胎の作用があります。

  • 桑螵蛸(そうひょうしょう)

 桑に寄生するカマキリの卵鞘は、桑螵蛸という生薬として腎陽虚による遺精、滑精、遺尿、頻尿、白色帯下などの病症に用いられます。

  • 白僵蚕(びゃくきょうさん)

 蚕(カイコ)は桑の葉を食べて成長しますが、ハクキョウサンビョウキンに感染して硬直死した幼虫の虫体は、白僵蚕という生薬として熱痙攣、慢性痙攣、皮膚の腫物、リンパ節結核、蕁麻疹、皮膚掻痒などに使われます。

  • 蚕砂(さんしゃ)

 桑の葉を食べる蚕が排出する糞便も、生薬として使われています。蚕砂というこの生薬は、風湿による関節痛、筋肉痛、四肢の運動障害、湿疹掻痒、腓腹筋痙攣などに効果を発揮します。

一種類の木からこんなに多種類の生薬が取れるのは、ちょっと珍しいですね。庭をお持ちの方は、ぜひ桑の木を植えてみてください。きっと役に立つでしょう。

(医学博士・中医師 甄立学)