米国では、中国での新型コロナウイルスの感染拡大、および米国内での感染が確認されたことを受けて警戒が強まっている。ウイルスの拡散防止を巡っては、どのようなマスクが最も効果的なのかといったさまざまな情報があふれかえっている。
しかし待ってほしい。
私はこれまで緊急治療室の医師として働いてきた。またニューヨーク・タイムズの中国特派員として、2002年から2003年に広東省で発生した、SARSウイルスの大流行を取り上げた。私の子どもたち2人は、SARSの感染拡大の間も北京市内の小学校に通っていた。
これらの経験から導き出した主な結論は次の2点だ。
1.頻繁に手を洗う。
2.病気のときは会社に行かない。子どもたちが病気の時も、学校や保育園へ行かせない。
ここでマスクについて一切触れていないことに注目してほしい。もしあなたがウイルスの大流行の真っただ中にいるのなら、予防策としてマスクをつけることに効果はあるだろう。しかし常にマスクを着用することはまた別の話だ。もちろん私も、SARS患者が収容されていた病院を訪れる際にはマスクを着用していた。広州市や香港など、SARSが流行していた都市を訪れた際も、飛行機や電車などの混雑して閉ざされた空間ではマスクを着けていた。
しかし、屋外の空気中で感染症が広がることはない。また、体内に侵入していたかもしれないウイルスを遮断したマスクは、すでに汚染されているいうことを忘れないでほしい。理論上は、ウイルスから体を守るには外出ごとに新しいマスクを着用する必要がある。
一般的なマスクを着用することは何もしないよりはましだが、うまく密閉されないためそれほどの効果は期待できない。N95マスクを買おうと考えている人に注意してほしいのは、つけ心地がとても悪いということだ。呼吸は苦しくなり、人と話すことも難しい。
たしかにウイルスは空気中の飛沫を介して人から人へと感染する。しかし私にとってより大きな懸念は、医師らが「媒介物」と呼ぶウイルスに感染した品物だ。ウイルスは、たとえば靴やドアノブ、ティッシュなどの表面に付着する。それらの物に触れた人が、今度は自分の顔に触れたり鼻をこすったりすることで病気にかかる恐れがある。
SARSの猛威に直面した多くの外国人らは、北京を離れるか、少なくとも子どもたちを米国に帰すことを選択した。私の家族は子どもたちも含めて全員が北京に残った。空港や機内でSARSに感染するリスクは、感染に注意を払いながら北京にとどまるよりも大きいと判断したからだ。
そして私は、混雑したショッピングモールやレストランに家族を連れて行くのをやめ、カンボジアへの家族旅行もキャンセルした。代わりに中国国内で旅行を楽しんだが、国内線の飛行機の中以外ではマスクを着用することはなかった。
子どもたちが通っていた北京のインターナショナルスクールは、首都圏で数少ないSARSの流行中も開校していた学校だった。
学校側はさまざまな予防策を講じた。保護者らに病気の子どもを学校へ行かせないよう注意喚起し、校門前で体温計を使用した発熱検査を施すと警告した。教師は子どもたちに頻繁に手を洗うよう促し、水だけで適当に済ますことがないように、長めの「手洗いの歌」を歌うようにした。
こうした予防策を通じて、私は公衆衛生の奇跡のようなものを目の当たりにした。子どもたちはだれ一人SARSに感染しなかっただけでなく、何か月間ものあいだ、病気にかかる者すらいなかったのだ。腹痛も、ただの風邪すらもである。
2003年7月、世界保健機関(WHO)はSARSの世界的な流行が終息したと宣言したが、これらの習慣は継続された。結局のところ、SARSや新型コロナウイルスに限らず、ほとんどのウイルスに対する最善の予防策は、おばあちゃんが教えてくれた当たり前のことだったのだ。
執筆者紹介
エリザベス・ローゼンタール(Elisabeth Rosenthal)
アメリカの医師、著作家、元ニューヨーク・タイムズ の北京局の特派員。
現在はKaiser Health Newsの編集長を務める
この記事は英語版大紀元への寄稿記事です。
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