【ショートストーリー】片腕の乞食

【大紀元日本6月11日】腕が片方しかない乞食が、修道院にやってきて物乞いをしていた。それを見た修道は、門のところに積んであるレンガの山を指差して、「あれを裏門の所に運んでくれないか」と言った。

乞食は憤慨した。「何だって!?俺は、片手しかないんだ。どうやって俺が運べるんだ!食い物も金も恵んでくれないんだったら、それでもいいさ。ただ、俺をからかうのはよしてくれ」。

修道僧は、片手でレンガを持ち上げると、「片手でも十分できますよ。」と言った。乞食は、仕方なく片手でレンガを持ち上げ、一つずつ裏門のところへ運んだ。全部運び終わるまでに4時間かかった。

修道僧は、そのお礼として、お金を渡した。乞食は嬉しくなり、「どうも有難うございます」と述べると、僧は、「私にお礼を言う必要はありません。自分の努力の結果、このお金を得たのですよ」と述べた。

乞食は、僧の言葉を胸に刻み、再度感謝の言葉を述べて、その場を去った。

ある日、別の乞食が修道院を訪れて、物乞いをした。僧は、裏門に積んであるレンガを指差して、それを前門へ運ぶよう依頼した。その乞食は身体的に何の障害もなかったが、僧に頼まれたことに憤慨し、その場を立ち去った。僧の弟子たちは、不思議に思って聞いた。「前回、片腕の乞食が来た時はレンガを裏門へ積んで欲しいといい、今回は前門へ運んでほしいとおっしゃいました。先生は、レンガをどこで使いたいのですか?」

僧は、「レンガをどこへ積もうが、そんなことはどうでもよい。それよりも、乞食がそれを自分で運ぶことに、大きな意味があるのだ。」と述べた。

数年後、堂々とした風采の男性が修道院を訪れた。彼は、片腕がなかった。数年前、片手でレンガを運んだあの乞食だった。彼は、その後彼の能力範囲でできる仕事をみつけ、一生懸命働き、気付いたら大金持ちになっていた。

一方、健康な身体の持ち主で、レンガを運ぶことを拒否した乞食は、いまだに物乞いをする生活だった。

人を助けるには、心を助けてあげるのが一番だ。食物やお金を与えれば彼は満足するかもしれないが、それも一時的なことだ。真にその人の心が目覚めるように救済してあげるのが一番効果的なのだ。