【大紀元日本10月25日】私は翌朝、金遁雲号を蒼龍に変身させると、これの頭に飛び乗り、上空から劉のクルーザを追跡することにした。劉は、マラッカ海峡の海賊たちと何やら相談をすると、そのまま何気なくマニラの港に接岸し、待っていたトラックに移った。「・・どうも臭い・・色々言っていたが・・こいつ結局の所、その正体は飛車※じゃないのか?」。
劉は、まず市場に駆けつけ、トラックに大量の米を買い付けた。「・・・うん?こいつは闇米屋か!?・・」と訝しがっていると、劉は、地元の「煙山」なる貧民窟に乗り入れ、ライスシャワー宜しく、手桶で生米を掬っては、貧民たちに嬉々として恵んでいる。
ひとしきり恵みきって、米がなくなると、劉は、今度はスーパーマーケットから大量の食材やら、巧克力(チョコレート)などの甘い菓子類、玩具などを買い入れると、トラックに積み込み、またひとしきりマニラ郊外の教会らしきバラックのような所で止まり、中に買い込んだ品物を運ばせた。
私がこれを確認し、教会の裏手にあるバナナ畑に蒼龍で着陸してから、教会の方へと歩を進めると、すでに教会の前の広場である野原にジェームズ劉は、神妙な面持ちで、観念したように佇んでいた。「・・・張先生・・あなたが中国で修行を完成された偉大な方であるとは・・マニラのヤクザから聞いて知りました・・どうか・・この私を討ってください・・私は、神の使徒でありながら、このように罪深い者です・・・私は、この日が来るのを薄々と感じていました・・どうぞご遠慮なく・・」と首を差し出してきた。
私は「いい心掛けだ・・ジェームズ劉!望みどおり、その首を削ぎ落としてくれる!」と如意棒を物質化して、高速で功力を充填したところである。小汚いバラックの中から、「ワァー」とばかりに小さな日比混血児たちが、大挙して押し寄せてきた。皆、相貌に涙を浮かべ、「・・We love Father Lieu. ・・He loves us as god bless you・・」などと言っている。小さな孤児たちは、瞬く間に劉を取り囲むようにして小さな悲しい盾となり、思わず為す術がなくなった。見ると、手元の如意棒が長大な千歳飴になっている。
「参ったな!私の如意棒は、世界最強だが、おまえにはそれでも突けない地上最強の盾があったとは!」と言って、飴を劉に手渡した。劉は、何か意味ありげな涙を流すと、無言で飴を受け取り、孤児たちとバラックの中に消えていった。
私はその背中に「・・以風転移・・搬了東西・・彑xun_蜻゙去・・辰巳僖僖・・」という詩を送ると、劉は「はっ」としたように振り返った。私は、早速に裏手のバナナ畑に待機させた蒼龍に乗り込むと、一路日本へと帰還したが、其の日の夕刻、マニラは歴史的なスコールに見舞われた。
明くる年の春先、神宮外苑前の路地裏でジェームズ劉を見かけた私は、これを如意棒で「ハッシ」とばかりに打ち据えた。すると、それは綺麗な中世の中国宮中風の御車となり、天空高く舞い上がって、主人たる湯王の陵墓に帰っていった。
(第十話の完)
※飛車:風によって移動し、物を運搬する一種の神器。
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